「  チャン様  」

 10月の初めに腰をいためてしまって以来、それからどんどん悪くなってしまい最近は部屋中を這って移動しているような状態なのだ。映画「リング」の貞子のようだが、暗がりで実際に妻に悲鳴を上げられたりすると腹が立つ。
 そういう訳で、ここのところ休日となるとフライロッドもバイクツーリングもあきらめて、ゴロゴロとしてテレビである。ケーブルテレビの映画チャンネルを1日中観ていると、ブームがまだ続いているのか韓国映画などを結構やっていたりしているではないか、つまらないものまでついでに売ってやろうという魂胆が丸見えである、まったく節操が無い。サン様? ヨン様? チェ・ジュウ? 
「ケッ!」である。暇なオバタリアンたちがオッカケなんかしやがって、国家的陰謀・策略に引っ掛かっている。
 ヨン様なんて“70年代の田舎のちょっと金持ちの教育ママ”と同じ顔だし、チェ・ジュウは若い頃の東千鶴と同じ顔である。しかも東の方が可愛かったぜ。ストーリーなんか35年前の「愛と死をみつめて」風味まんまだし、マコ甘えてばかりでごめんね〜♪、歌ってみろってんだ、べらんめえ。
 さらにだ、ドラマの照明がいつでもどこでもギンギンでおかしいってんだよ、照明係りは居ねえのか何やってんだよ、韓国テレビドラマは。
 イテテテ、腰痛はどうしてわたしを選んだの?

 日曜の夜、NHKの「義経」を観終えた後チャンネルを変えてみると、金城武の出ている「Lovers」が始まろうとしていた。惰性で観ることにしたが、観始めて事態は一変した。
「美しい! 美しい! 美しい! 美しい! チャン・ツィイーが美し過ぎる!」
 わたしはまな板に釘付けにされたウナギのような格好で床に横たわり、さらに目はチャン様の美顔に釘付けになった。今一番勢いのある中国系美人スターであることは知っていたが、花王のアジアンビューティーのCMを観た限りでは「ああ、きれいな人」ぐらいにしか思っていなかったのだ。がしかし、演じ手としての彼女の顔は“アジアの宝”だ。もとい、“世界の宝”だ。
「高貴でありながらかつ蠱惑(コワク)的な下品さを兼ね備え、チャーミングでありながら品のいい醜悪さをもった超一級の美人だぜ」わたしは絶賛した。
「そう? そら豆みたいなただの中国顔だけどねえ」妻はきっと馬鹿者にちがいない。
 テレビで映画を観終わり、わたしは痛い腰をかばいながら身仕度をした。レンタルDVD屋へ「Lovers」を借りに行こうと言う訳である。チャン様のスチール写真がどうしても欲しくなったのだ。DVDならパソコンで再生しながらバシバシと何カットでも写真が撮れる。
「LoversのDVDなら家にあるわよぉ!」
「エ〜! なんで早く言わないんだよ、死ぬ思いで靴下をはいたのに」
 さあ、それからが大変、大馬鹿野郎、フォー! (レーザーラモン風に)である。

 わたしは「Lovers」のDVDを最初から最後までストップモーションで再生しながら、チャン様の顔写真を約300カット撮った。「ウ、ウ、美しい!」と言いながらだ。妻子には絶対見られたくない光景だ。
 さらにWEB検索でありとあらゆるチャン様の写真を集めること300枚、とうとうチャン様の顔を600個手中に収めた。チャン様は特に「目」がいいので、魅力的な目が1200個、わたしのものになった訳だ。
 思えば、過去に1度だけ「中江由里」さんの写真集めに熱中したことがあるこの症状、10年振り2度目の発病である。
 美しい顔、怒れる顔、涙を流す顔、笑う顔、照れる顔、気取った顔、おどけた顔……、600個のチャン様の顔それぞれが、わたしに若き日の何かを思い出させた。腰は痛いが胸は熱くなった。
 そしてそれらを1秒間隔のスライドショーで観る頃、とうとう窓の外はしらじらと明け初めてきたのである。
「ああ、51歳にもなって俺は一体何をやってるんだろうか」
 わたしは突然自己嫌悪に陥った。しかしその時一瞬だけだが、ヨン様をオッカケるオバタリアンたちの心情が少し解るような気がしたのだ。青白い窓を見ながら、わたしは自嘲しながらも気分が良かった。
 
 チャン・ツィイー様のスチール写真収集はもうしばらく続く……かな? 




           





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