颯田 靖の水彩画「まぶしいねえ」
白芙蓉物語
07年07月29日(日)「 白芙蓉物語 」

 白芙蓉の写真を撮りに出かける。というより白芙蓉の花を探しに、と言った方が正しいだろうか。白い芙蓉に魅せられてしまったようだ。
 妻がネット上で絵を売っている関係でわたしも色々な絵を観るのだが、最近ちょっと感動的な1枚に出会ったのだ。それが白い芙蓉の絵だった訳である。

 扱っている絵はまったく仲間内のもので、わたしと妻の美大時代の友人や先輩・後輩たちのものだ。インターネットで絵を売るということ自体が難しいことだし、おそらく安価でなければ売れないであろうことは初めからわかっていた。たくさんの人に声をかけたが、笑われたり怒られたりもした。画家なんてプライドの固まりだから3〜4000円で自分の御芸術が売買されるのは許せない、という人がほとんどなのである。賛同してくれたのは、いい意味でヘソの曲がった人たちばかり、酸いも甘いも噛み分けたナイスな人たちであった。 誰がどんな絵を描くかは大体つかんでいるし、お互いに気心も知れているのでいまさら作品を褒めたりするのは気恥ずかしいのだが、つい最近の颯田 靖の「まぶしいねえ」はとても好きな絵だった。売れてしまったので過去形になってしまうが、よっぽど出品を取り下げてもらおうかと思ったほどである。自分の部屋に飾りたかったのだ。落札価格は¥5000だった。B5サイズより小さいが、個展などでの頒布価格はその4〜5倍だろうから颯田さんには悪いような気がして、なおさらわたしが買ってあげればよかったかなあと未だに後悔している。
 妻が作品を扱わしてもらっている画家たちはみんな欲がなくて、おまけに自分の作品を手元に置いておきたくない、欲しい人がいるならタダで持ってってもいいよ、というような考えの人たちなので成り立っている訳なのだ。

 妻がなんとなく記憶している場所を教えてもらい、バイクでゆっくりと回ってみる。地図は少しずつずれてはいたがいくつかの株を見つけて写真を撮る。芙蓉は盛夏の花なので今が旬、どの花も形がきれいで大きい。美しいなあ。 颯田さんはなかなか洒落っ気のある人で、もう1枚納めてくれた芙蓉の絵に「淑女の時間」というタイトルを付け、妻に「白芙蓉の花の咲き始めから開ききるまでの最も美しい30分間を“淑女の時間”というのだよ」と教えたのだというのだ。妻は初めて聞く話だったので喜び、得意になっていろんな人に知ったかぶりで話してしまった。ところが後でわかったことなのだが、その話は颯田さんの創作話(作り話)で妻は教えた相手全員にことの顛末を説明し謝りの電話をかけなければならなかったのだ。
 まあそんなエピソードもあり、わたしも興味を抱くにいたって写真を撮りに出かけて来た訳である。淑女と呼ぶにふさわしいその真っ白な花は、夏のギラギラとした光の中でも楚として凛と咲いていた。
「美人だねえ、君は」
 わたしはもう何十年も言ったことのない台詞をつぶやき、そして急に恥ずかしくなってニヤニヤした。子供連れの母親が通りかかり、その足を早めで通り過ぎようとしているのがわかった。子供に何事か言っている。
「見ちゃダメ、目を合わせちゃダメよ……」
 わたしはその親子連れを100mぐらい追いかけましたね。 




              




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