06年1月21日(土)「 雪中ウォーク 」

 本格的に雪が降って来たので「雪中ウォーク」をすることにした。横文字で洒落てみてもしょうがない、ただの散歩だ。日本海側の、豪雪で被害を被っておられる方々には誠に申し訳ないが、南国生まれのわたしはいくつになっても雪を見るとついはしゃいだ気分になってしまう。
 フリース地の“ズボン下”を履き、ダウンのベストにさらにダウンのジャケットを重ね着した。ちょっと動きまわれば汗ばむぐらいだ。しかしこのぐらい着込んでいると「チェッ、寒、もう帰ろ」とはならないので心に余裕が生まれ、雪見を堪能できる……筈である。
 家の近く(徒歩1分)の市民公園へ行く。よく手入れされた公園なので面白味はないが、まあまあ広いので足腰のリハビリ散歩にはいい。1周の距離が約1500mある。

 わたしには最近変な“口癖”が付いてしまった。口癖というよりもマイブームに近い。公開に手間どっている「朗読の時間」の準備で、NG朗読をくりかえし過ぎたせいか、普通の生活会話もなんだかナレーション風になってしまったのだ。例えばこうだ。
「ただいま、ああ腹減った、きょうのオカズはなんだ?」で済むところを「私は“ただいま”と言ったあと妻に空腹を訴え、その晩のオカズは何だ、と聞いたのだった〜」とか言うのだ。
「ほ〜れ肉じゃが〜、ほ〜れオサシミ〜、と妻も言うのじゃった〜」と妻も言いながら配膳する。遊びに付き合ってくれる相手がいるので、ますます調子に乗ってやっていたせいか、本当に癖になってしまった。
 しかしふと気が付くと、戸外で一人の時も無意識に声に出してこれをやっていることがあるのでちょっと恥ずかしい。“ナレーション・オヤジ”とか“文語体オジサン”とかいうあだ名がつくと、まあ面白いけど家族にとっては“変態オヤジ”と言われるのとあまり差はないので迷惑をかけることになる。

 雪は止みそうになく、ますます激しく降ってきていた。ボタン雪だ。
「公園の方からやって来た1人の若い女が、雪の中を嬉しそうにニヤニヤ笑いながら歩いている私を好奇のまなざしで見てすれ違った。振り向けば、おそらく女も振り向いているはずだった」
 とか、わたしは言った。試しに振り向いてみると滑って転んでいた。聞こえたのかも知れない。悪いことをした。
「冬の野菜などでさえ冷気にやられてしまうことがあるというのに、パンジーという花はほとんど雪に直接埋もれてしまっていても凍ることはない。私は、もしかするとパンジーには温度変化に対して非常に強い何かの成分が含まれているのかも知れないと思ったのだった。新薬の研究のヒントを得たような気がした」
 とか、わたしは言った。いつから薬剤師になったんだ?
「貴文は空を仰ぎ、積もりそうだなと思った。遥かな天空から落ちてくる無数の雪の結晶を見て思わず過ぎていった数年を思った。そしておそらく、自分は近々逮捕されるんだろうなあと思ったのだった。仲間たちと、怪物のような会社にしようと誓ったあの日すでに、今日という日が来ることを自身分かっていたような気がしたのだった」
 誰が堀江社長やねん! 

 2時間ほど雪の中を歩きまわったので、さすがに体が冷えてきた。ふくらはぎの肉離れの跡がまた少し痛み始めた。
 去年の秋口からの腰痛といい、今年早々の肉離れといい、どうもわたしには何か悪いものが憑いているようだ。身に覚えはないが少し暖かくなったら厄払いにでも行った方が良いかもしれない。2度あることは3度あると言うし、ムカツクがことわざはだいたい正しい。
「修三は次第にボロボロになってゆく自分の体をもう一度立て直す方法を模索していた。なぜなら、もう少し生きていたい理由が2つあったからだ。身寄りがまったく無くなった妻を看取ってやるために彼女よりは1日でも長く生きていたかったし、さらにもうひとつ、J.F.ケネディの暗殺に関するウォーレン委員会の資料が公開されるのが2039年なので、それまでは何としてでも生きてことの真相を知りたいと思っているのだった。」
 修三ってだれだよ、妄想はもうよそう、 いつまでやってんだよ。
 …………とわたしは言うのだった〜。




             




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