親バカと言うよりバカ親であるが、それでいいのだ!
2010年6月10日(金)「 親バカな10日間 」

 “歳をとってからできた子供というのは可愛い”と言うがこんな感じなんだろうなあ、とわたしは毎日愛犬「空(ソラ)」と戯れている。なるべくコミュニケーションをとろうと、散歩の時も入浴の時も言葉をかけるようにしているのだ。
「俺はおまえを目の中に入れても痛くないぞ。ヒヒッ」などと言うと、いきなり前足でわたしの眼球にパンチを放ち、メガネを壊したりするのだ。どうやらわたしの言葉が解るようなのである。「3マイナス2は?」の質問に「ワン」と答えた時は腰を抜かした。いやはや実に賢い。
 何かの本で読んだのだが「子供は甘やかして育てるのと厳しく育てるのではどっちが知能がより発達するか」というのがあった。答えは前者であるらしい。親バカの言い訳であることは承知の助。
「いくら頭がよくてもさ、ウンコッタレ男じゃ困るんだけど!」と娘は品の無いことを言う。しかしそれは人間でも同じことが言えるので真実ではある。

 ペットショップのかわいいお姉さんは「1週間ぐらいは散歩は控えてくださいね。屋内育ちですのでいきなり屋外に出すとメンタル面でのショックが大きくて、その後散歩を嫌ったり、臆病になったりしますから」ともっともらしい理屈を並べたが、わたしはいきなり翌日から空を外へ連れだした。小さなショックは乗り越えても小さな自信にしかならない。賭けではあるが、ショックは大きければ大きいほどいいような気がしたからだ。乗り越えた時の自信は相当大きなものになるはずだ。乗り越えられなかったら「それまで」と諦めよう。静かでおとなしい生き方を選べばいいだけだ。
 
 6月01日、車で30分の千葉市植物園へ行きバラの鑑賞、芝生の広場での全力疾走、他の犬とのスキンシップを経験させた。車に乗るのを怖がらず、窓から入ってくる風に鼻をヒクヒクとさせ嬉々としている。帰りの車中では飽きたのかシート上で手足を一直線に伸ばして寝てしまった。こいつはなかなかに太い。
 中学3年時の担任が「世の中には大者と小者と曲者がいる。みんな曲者にないやんせ」と言ったのを突然思い出した。別に意味はないが“曲者の犬”ってイカシてるじゃないか。

 6月02日、家族共々またまた外出、“九十九里海岸”へ。車が平気となると、遊べる範囲が大きく広がる。それに運転する側も運転に集中できるので安心・安全というものだ。
 見るもの聞くもの全てが初めてのはずだが、まったく物怖じしない。ハラハラさせられるのも親の喜びだと知る。男の子はこうでなくてはいけない。ちょっと脳味噌が薄い可能性が考えられなくもないが、その時は単純な番犬の生き方をすればいいだけである。わたしのいるSECOMはとてもいい会社なので、犬も雇ってくれるらしい。嗅覚がすごい分、人間より給料はいいんじゃなかろうか。
 砂浜の全力疾走、海水浴、大型犬とのスキンシップ、ボール遊び(の練習)をさせた。「させた」というのはちょっと間違いだ。自身から波打ち際を狂ったように走り、波を恐れることなく潮溜まりに飛び込み、ゴールデンレトリバーに飛びかかって行った。

 6月03日は秋元牧場。前日に海岸で会ったゴールデンレトリーバーの飼い主が「秋元牧場は犬の入場OKですよ」と教えてくれたからだ。ここは全力疾走のみ。馬に興味がありそうだったが、いくらなんでも生後5ヶ月で馬に蹴られて終わる人生じゃかわいそうだ。末代まで笑われる。わたしが馬の代わりをする。つまり「ヒヒーン」と鳴きながら走りまわっただけ。
 もともとウサギ狩り用の猟犬なのだから、牧場で飼っているウサギをちょっと放して追わせてみたかったが、妻と娘が信じられないといった顔で怒りだしたので仕方なくやめた。
「今は体力作りの期間!」と主張し、わたしは敢えて空のヤンチャを許してしまっているので、彼がかなりわたしになついてしまった。口から血を流しながら(歯が生えかわる時期なので)タオルを巻いたわたしの右腕と格闘するのは楽しいにきまっている。それでかどうか、娘は最近ちょっとご機嫌ななめである。むすめは“聞き分けのある、品のいい犬”にしたかったらしいのだ。なのにまだオスワリもできない。
「空はもうパパの犬だね」とか口を尖らせて言っているが、知ったことじゃない。好かれた者勝ち!

 6月08日、裏山方面へ遠足である。バイクでゆっくり流して30分程の距離(12〜13Km)を、親子2人でテクテクと3時間半かけて歩いた。見慣れたいつもの夕涼みショートコースだが歩くのは初めてである。腰痛のせいもあるが結構きつい。ましてや生後5ヶ月の空にとっては「大冒険」に近い。
 夜明け直後に出発。霧のかかった崇高な光を空に見せてやりたかったからだ。水田に囲まれた1本道に入り、わたしは空のリードを外した。勝手気ままに行動させ、わたしが犬について行く。老人になったらそういうスタイルで鹿児島まで放浪してみたいと思っているのだが。子連れ狼のような箱車を押して行くのもいいかもしれない。
 距離が進むにつれて、はしゃいだ気分が落ち着いたのだろう。ヘビの死骸をくわえて得意げに走り回っていたのが、ピッタリとわたしの側面について一定のスピードで歩くようになった。疲労もあったのだろう、時々上目遣いでわたしを見た。わたしは空を励ましながら、最近わたしの身のまわりで起きた珍事、妻のこと、娘のこと、人生の極意、美学などをボソボソとしゃべり続けた。空もいちいち応えてくれる。なぜかゲゲゲの鬼太郎口調だ。
「ハイとうさん、B型女は甘やかすな、ですね」とか「ハイとうさん、痩せた小男には気をつけろ、ですね」とか「ハイとうさん、金は天下のまわし者ですね」いった具合だ。
 空の方もいろいろと質問する。
「かあさんとねえちゃんが話してたけど虚勢って何?」わたしはその問いに何も答えられなかった。“人間のエゴ”の意味を理解するにはあまりに空の心は幼い。
 3時間経ったところで「車で迎えに行こうか?」と妻から電話があったが、もうあとちょっとの所まできていたので空と話し合って断った。
 すばらしい達成感。帰宅後、わたしは空とシャワーを浴び、抱き合って2時間眠った。

 
 ここのところ、我が家の夕食時の話題はほとんど空のことばかりだ。だいたいわたしがメインでしゃべくりまくっている。機関銃トークだ。
「あいつは言葉も解るし、他の犬とは違う何かを持ってるな。長い距離をいっしょに歩いているとな、次第に濃密な関係が築かれていくのが分かるわけだよ。人間のことばがしゃべれないから、あいつは目で語ってくる。アイコンタクトってやつだな。俺はもう目の形でだいたい何を言いたいか解るような気がするな。こういうのはやっぱり男同士だから通じるんじゃないかなあ。上目遣いでシグナルを送られるとさあ、上から目線ではいられないわけよ。だから俺はすぐ四つん這いになって、何?何?って相談に乗るわけですよ、ハハハハハ」
 妻と娘は肩を震わせながらため息をついた。
「それはさあ、水を飲みたかっただけなんじゃないの? “親バカ”って言うより“バカ親”って感じ!」
 妻の無粋な言い草にわたしはちょっとだけカチンときたが、ヒャッヒャッヒャッと笑い飛ばした。
 間違いないって、空はわたしを一番好きに決まってるって! ヒャッヒャッヒャッー!


 

                 




mk

 
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実に凛々しいぞお前

放してやれっつうの

犬の価値は値に非ず

ヤンチャは若さの特権

何でも食ってみるもの

マヌケ面でもいい

考える犬になれ

行き先は自分で決めろ

判断も自分でしろ

時には不安もよぎるさ

立往生すこともある

疲れたら休めばいい
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