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“小宮家シリーズ”の始まりでしょうか?
 

落人屋敷

兵どもの夢の跡

諸行無情

まあなんとか

2日目なのだ

70L×6個
2021年08月02日(月)「落人屋敷」

 4月9日の「怒りの庭仕事」でもちょっと触れたが、隣人の小宮(仮名)さん夫婦のネタ(?)である。
 70歳を超えた老夫婦なので声がでかい。さらに先方の台所が我が家の庭に面していて、一応こっちの居間と4mほどの距離は有るのだが、意外と彼らの会話が聞こえてきてしまうのだ。特に夏は窓が開けっぱなしだからなおさらである。

「最近、虫が多いな」
「ほら……、隣が草ボウボウだから……」
「オリーブの木は旦那さんが切ってくれたけど、その後はまったく放ったらかしだもんなあ」
「落人屋敷みたいじゃない? ねえ!」
「そうだなあ、昔は奥さんがよくバラの手入れなんかしてたけどなあ、すぐ飽きる性質(たち)なんだろうなあ……」

 わたしは自分が落人だった、と初めて知った。そういえば前頭葉が禿げ上がってきたから、今長髪にすれば間違いなく「晒し首」みたいだろうなあ、と少し笑った。が、笑っている場合じゃないのだ。
 すぐ飽きる性質(たち)と言われて、妻は正しく怒り、正拳で壁に穴を開けた。

 熱中症になったふりをして草をガンガン隣に投げ込んでやろうかと思ったが、ビールを飲みながらやったせいか水分補給がバッチシで気分も高揚し「♪あっという間に草ボウボウ、あっという間に髭ボウボウ♪」などと歌い踊りながら仕事は調子良くはかどってしまったのだった。
 2日目は妻も“怒りの草むしり”に参加してきたが“木を見て森を見ず”そのまんまだ。細かい草までぜん〜ぶ完璧に抜き取ることに執着している。
 わたしは「大まかにやっつけてさ、細かい所は後でやろうよ、どうせ俺らは“落人”なんだから、あんまり表に顔出しちゃダメなんだからさ〜、隠れてないと!」と窓が開いていることを確認しつつ、やや腹に力を込めて少し大きな声で言った。
 隣家の奥で皿の割れる音がしたが、おそらく何の関係も無い。そんな小さな玉じゃないのだ。フフフ。
 小林 倫博