夏のちから
08年07月19日(土)「 夏のちから 」

 腰の引けた梅雨明け宣言が出た。空模様と国民の顔色を見た微妙なタイミングである。気象庁も大変なのだなあ、とつくづく思う。過去には「明けた」と宣言した直後に大雨の日が続き、とうとう「まだ明けてませんでした宣言」をしただらしない年もあったりしたので、以後気象庁はすっかりナーバスになってしまった。桜の開花宣言やら、梅雨の入り明けなんぞは“アマタツ〜!”にまかせてしまえばいいのだ。

 梅雨が明けたら海山川と決めていたのだが、いまいましいかな稼業の方も人手不足で忙しくなってしまった。拘束時間は朝10:00から翌日の夜21:00までというパターンが多い。労働基準法糞くらえの35時間勤務である。さらに加えて臨時の仕事も飛び込んでくるので「僕、明日は釣りに……」とは言い辛い環境・雰囲気なのである。自分だけ楽しやがって、と若い衆に思われたら立場が失墜するからねえ。
 35時間勤務を連続でやったりすると、食ったことはないが“笑い茸”を食った時と同じ状態になり、ヘラヘラと笑いながら強烈なホームシックに陥る。ホームシックって言うんじゃなくて「ただ家に帰りたいだけだろ」ともよく言われるのだが、心の中で妻の名を呼んだりするからもう本当の立派な心の病であるのだ。

 まるまる3日振りに帰宅し、庭を見た。驚くことばかりである。
「え! グロリオーサがもう咲いたの?」
「そうなのよ、クリビツテンギョウ(びっくり仰天)なのよ」
 妻はくだらない芸能界用語を使った。姉の家からもらった球根を植えてはみたものの、妻はあまりこの花に興味が持てなかったのか伸び放題、倒れたままにしていたのだ。つかまるものがなくて、葉っぱ同士がからんだりしている。葉っぱの先が蔓になっているのだ。ちょっと忍びなくて(姉に悪い気もして)、わたしが3日前に支柱を立ててやったのである。その時点では蕾がやっと1.5Cmぐらいだっただろうか。わたしは狐につままれたような気分になった。
 回りを見回すと、少々極端な言い方になるが植物どもが異常に活気づいている。雑草も含めてイケイケゴーゴー状態である。桃太郎(トマト)は猿・犬・キジの味方までやっつけてしまいそうな勢いだし、葡萄は蔓を伸ばして隣家の“よしず”にからみついている。エンゼルトランペット(ダチュラ)はナス科特有の青臭さを屁のように放ちながら、葡萄野郎と勢力争いを宣言するかのように大きな葉を微風に震わせているのである。死んだと思って捨てたオクラの苗まで復活の狼煙(のろし)を上げてきた。ミョウガも密かに天下を狙っているようだった。わたしは「オー! オー!」と叫びながらミニトマトを口いっぱいに頬張り「ノォアツノツィカロァどぉあ〜!」とつぶやいた。「夏のちからだ!」と言ったつもりだったが、妻はわたしが熱さで狂ったと思ったのか持っていた柳刃包丁を胸の前で構えた。

 気温はグングン上がり、33度はありそうだった。わたしは部屋に入りアイスコーヒーを作った。引っ越しでクーラー(古いねえ、エアコン?)を捨ててきたので、現在我が屋にある涼機は扇風機だけである。まるで40年ぐらい前の夏の日のようだ。♪♪マザー ドゥーユー リメンバー〜♪♪
「プシュンー」
 突然庭で激しい音がして、出窓で寝ていた猫どもが全員10Cmほど飛びあがった。なんと! なんとだ。直射日光下に置いてあったスーパーカブのチューブが破裂したのだった。
「初めてだぜこんなの! こんなことが有っていいのか! え! チクショウ〜!“夏のちから”め〜!」
 わたしのあまりの剣幕に、妻は今度は出刃包丁を構えた。




              




mk

これがグロリオーサさ

2mまでは伸びそうだ

黄色のミニトマトだった

桃太郎は美味いぞ

桃太郎は控え目だ

後続もぞくぞくと
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