「 モラハラ 」

 今話題のモラル・ハラスメントである。その言葉自体はテレビで知り、詳細をWebで検索した。特に夫婦間でのモラハラについて書かれたものが多い。わたしの場合は、夫婦という人間関係に求めるものがはっきりしているので、その求めるものが得られなくなった状態の夫婦関係をいやいや続けている人たちの気が知れない。
 子供のこと、世間体、経済関連、その他もろもろの“別れられない理由”があるのだろうが、そもそもそういうしがらみがあること自体が、わたしの“夫婦感”とすでにズレている。芥川龍之介だったか誰だったかもう忘れてしまったが、まあ誰かの説に「自分が幸せかそうでないか、といったことを考えない状態が幸せなのだ」というのがあった。「これでいいのだろうか」という疑問をいだいた時点ですでに何か問題があるのだ。だからもう別れてしまいなさいというのではない。治せるものなら治して理想的な夫婦を目指さねばならない。
 夫婦というのはお互いに自立した(ひとりでも生きていける)人間同士が、この世で男と女という素敵な縁でいっしょにいる関係ではないのだろうか? “素敵”というのはちょっと“甘っちょろ〜い”けれど“不思議な”とか、まあ“すばらしい”とかに言いかえれば夫婦でなくとも、すべての人間関係に共通する。いっしょに居ることが苦痛であったり、ウジウジウジウジと嫌なことを言われ続けるのならさっさとその関係を清算すべきだ。世間に鬼と言われようと、たとえ結果的に仁義に反しようと、自分のための人生だ。責任をもって好きなようにすればいい。
 “愛すべき”及び“命にかえても守るべき”妻に対して毎日繰り返し繰り返し精神的苦痛を与えるなど、その夫は異常者の可能性が高い。2〜3年我慢しながらく工夫しても治らないのならもうあきらめた方が賢明なような気がする。わたしは「リセット」が好きだ。パソコン、その他もろもろの機械は調子がおかしくなるとすぐに「工場出荷時状態」に戻してしまいたくなる。しかし夫婦の関係に「リセットボタン」は無い。
  
 ある朝、わたしは金縁メガネを小指で押上ながら妻に言ってみた。
「この冷めた味噌汁を飲めというのか? 気の利かない女だなあ、俺が暖かい味噌汁しか飲まないのは20年前に言ったはずだ。夫が一度言ったことはちゃんと覚えておけよ。頭が悪くてそれができないってんならメモを取ったらどうなんだ? なんならその三段腹のしわにメモ帳を挟み込んでな。自己管理もできずにブクブク太っていく女に俺の食事なんか作られてたまるかってんだ。すぐに温ためなおせ、いや、もういい! 飯は外で食う」
 妻はピクリと反応して上目づかいでわたしを見た。逆切れするか、笑い出すかのどっちかだろうと予想していたが返事は意外なものだった。
「○○さんちのダンナさんがねえ、本当にそんな感じなんだって。さっさと別れなって言ったんだけどねえ、離婚するのも許さんとか言うらしいのねえ、健太(犬の名)を散歩させてる時なんてやさしそうに見えるけどねえ」
 思いがけない近所のモラハラの出現に「う〜ん……」と唸ったまま、わたしは冷めた味噌汁を飲み干した。


 

            





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