ミニトマト元気いっぱい。シャキッとしている
桃太郎
08年4月13日(日)「 桃太郎 」

 貴重な休日を2回も「雨」に奪われた上に、またまた今日も雨だ。いろいろ罰(バチ)が当たっているのよ、と妻は言うけれど身に覚えは無い。最近やった悪事といえば……、部屋でタバコを1本吸ってしまったのでその匂い消しに“お香”を6種類買ってきて、そしてそれらをいっぺんに燃やしたものだから部屋に超気持ちの悪い便所のような匂いを付けてしまったこと…ぐらいなのだが。

 雨が降ろうが傘が降ろうが、この際行動あるのみ! 桃太郎を作ることにした。桃太郎侍ではもちろんない。トマトの桃太郎だ。わたしは鹿児島の田舎育ちなので、今思うと幼少時、実に豊かな食生活を送っていたように思う。とくに小魚が豊富だった。お昼前には漁師が獲れたての魚をてんびん棒で担いで売りにきたし、現在高級魚となってしまった“きびなご”などは鍋1杯30円ぐらいで、塩茹でしたものを死ぬほど食った。酢じめしてない生サバの刺し身がどれほど旨いか書いているだけでヨダレが落ちる。野菜は無農薬、太陽の光をいっぱい浴びたトマト、キュウリ、ナス、ニガウリ、なんでも有った。ヘチマだって油で炒めて味噌で味付けすると逸品である。さらに肉、そもそも白い豚は鹿児島には1匹もいなかったので、豚肉はすべて“薩摩の黒豚”だったはずである。鳥肉も自宅の庭で飼っていたものを必要に応じてつぶして(殺して)食っていたし、牛乳にいたっては毎朝登校途中に牛の乳房から直接飲んだものだ。
 つまり何が言いたいかというと……、わたしは「本当に旨いもの、本物の味」っていうのを知っている人間だということさ、ガッハッハッハ〜! まいったか。

「トマトを作りたいから俺にも庭を少しくれ」と妻に頼むと、許されたのは裏庭の隅の隅だった。0.5*1.5mぐらいのものだ。実にケチなやつだが、妻と娘には現在、壮大なガーデニングの計画があるらしいのでしかたが無い。ニジマスの池も鳥の来る果樹園も隠れ家ログハウスもダメだそうだ。もっともそんなに何でもかんでも手を出す時間的余裕はわたしには無い。
 10:00きっかりに材料調達に出発。大体のめぼしは付けてあったのでDIY店で15分でそろえる。灰色の普通のブロックだけは絶対ヤメテとクギを刺されていたので少しだけ小洒落たレンガ色のブロックにする。なんか少女趣味チックな花壇のようで嫌だったが安かったのでそれにした。ポピュラーな型なので、そのうち1個ずつ買い足してわたしの畑を広げてしまおうとたくらんでいる。
 芝の根切りをして土地を耕してから、ブロックで囲いを作った。買ってきた黒土と玉土、ピートモスを混ぜて、ある程度水はけのよい土を作り入れる。トマトは確かメキシコの高山地方原産だったので、割と乾いているほうが良かったはずだが、桃太郎は日本産のものだろうからこんなもので……まあ適当だ。桃太郎3本、ミニトマト2本の苗を植えてもうできあがり、雨が降っているので特に水やりの要なし。肥料をやりすぎていつも枯らしてしまうので、それはもう少し確実に暖かくなってからのことにする。楽しみは2時間で終わってしまった。することがなくなったので、後はいつものように“妄想的万物との会話”である。
「今日は少し寒いけど大丈夫か? その土の味はどうだ、口に合うか?」
「……」トマトたちは何も答えない。
「ひとりずつ区別ができるように名前をつけてやろうか? サユリとマユミとユカリとユカとトメでどうだ。ひとりだけトメじゃ変かな?」
「……」
 ピシッと隣家の窓が閉まった。ヤバイ、見られたかもしれない。

 裏庭の隅の隅とはいえ、ここは1日中陽が当たっているので今年はおいしいトマトがふんだんに食べられるはずである。冷蔵庫で冷やしたトマトももちろん旨いが、夏の日に日光で暖められた熱い(?)トマトもまた格別の甘みと香りを持っている。皮は硬いが成熟が密だ。
「スーパーマーケットの香りのないトマトはもう2度と食わないぞ、おれは浮気はしない男だ」わたしは植えられた5本の苗を見つめながら意を決した。
 雨に濡れながらいつまでも庭で遊んでいるわたしを、ちょうど遊びにきた母をまじえて家人が窓から指さして笑っている。何かとても楽しそうにしている。母が言った。
「ミニトマトは実が付くかもしれんけどなあ、大きいトマトは、とくに桃太郎はむずかしかよ。犬と猿とキジの助けでもあればなあ、アハアハアハハッ」 
「ハハハハッ」
「ホホホホ・へへへへ・ウヒャヒャヒャ」
 母を中心にわたしを笑いものにしているようだった。ふざけんなよ!
 わたしは桃太郎を絶対に誰にも食わさないことに決めた。
「サユリ、マユミ、がんばろうな」
 ガラガラガラッ、隣の家は雨戸まで閉めやがった。




             




mk
ブロックを増やせばどんどん広げられる
Yahoo!JapanGeocities topHelp!Me