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「 ポケットクラリネット 」     2005年1月20日(木)


 クラリネットを買った。オークションサイトは、何から何までそろっていてさしずめ千貨店(百貨店ノ10倍ノ意味アルネ、クダラネー!)だ。見ているとジャンク品から高級なものまで多種そろっており、そして24時間営業なので夜中などに急に欲しくなっても衝動的に即座に購入できてしまう。気の多いわたしにとっては快楽を絵に描いたようなお店だ。買い物は快楽なのだ。
「“昔、お金が無くて買えなかった”という意識は、もう立派なトラウマの一種だからね、50歳代になった今だからこそクリアしておかなければならないのよ、これは心の治療なのよ、明日の幸せにつながる精神のケアなのよ、あなたの幸せにも関係ある訳よ、you see?」
 わたしの屁理屈に、妻は困った顔をして言うのだ。
「悪いとは言いません、でも元プロのミュージシャンなんだから楽器だけはちゃんとしたものを買ったら?変なものを買うからすぐ飽きちゃうんじゃないの? ヴァイオリンだってサックスだって、胡弓だってフルートだって……」
 うー、鋭い指摘だ、そうかも知れない。わたしが買ったのは¥3500のクラリネットなのだ。

 手元に届いたクラリネットは案の定「ボロボロ」だった。木管楽器のはずなのにプラスチック管だ。まあ予想はしていたのでショックは無い。それに金属部分も、くすんではいるが錆びてはいない、十分使えそうである。リードも別競売で買い、すでに到着していたのですぐにセットして吹いてみる。………、音は出た。でっかい音がでた。横にいた若猫のウーロンが1mぐらい飛びあがり、ベランダの方へ逃げた。
「馬鹿だよ、あのオヤジ!」とか妻に言いつけている。
「う〜ん、家では吹けんな」
 わたしはクラリネットを分割してケースに収めた。このまま収めたまんまにならなきゃいいが……、嫌な予感がした。
 で、またすぐに飽きてしまわないように何か別の作戦とからめて楽しむことにしたのだ。
「カブで人のいない所へ出掛けて、そこで吹こう。これも立派なアウトドアじゃないか! ジャズメンだ! 俺もついにアウトドアジャズメンだ?!」
 で、本日野外デビューとなったのだ。硬目のリードのせいかなかなかスムーズにというか、楽に音が出ないが、まあプーとかピーとか思いきり吹けて大満足。寒さも忘れて楽しんだ。
「そうだ、次に来る時はコーヒーなんぞ沸かしながらというのもいいぞなもし、焼きそば、焼き肉、ラーメンもいい、宮崎の中里さんからもらった焼酎『百年の孤独』を飲みながらというのも実にいいなあ……」
 心の中からトラウマが消えていくような? 気がした。
 
 そもそも、わたしが管楽器にこだわるのには理由がある。10年ぐらい前、いつもわたしの釣行に付きあってくれていた会社の同僚(通称オカピー)が、実はもうひとつの夜の顔を持っていて、週末になると都内のライブハウスに出現するジャズマンだったのだ。(彼は現在、トランペットのマウスピースばかりを扱うネットショップをやっている。その多種多様なマウスピースの写真を見るだけでも十分楽しめるので、興味のある人は覗いてください。 http://www.net-brass.com/ )そしてある日、オカピーと渡良瀬川の上流でヤマメ狙いのフライフィッシングのあと、そのまま河原でキャンプ泊した。わたしは翌朝、川面に広がる朝霧の中、魚のこと、仕事のこと、過去、未来、人、女、男……諸々の思いに耽っていた。そして気が付くと、わたしの大好きなリー・モーガンの「セオラ」という曲が流れてきたのだ。
 オカピーがラッパを吹いていた。リー・モーガンとそっくり同じだった。わたしは感動し「奴は男だ!」と思った。

 一息入れてわたしはまた川辺でクラリネットを気持ちよくピープー、ピープーと吹いた。千里の道も一歩からだ。万里の長城も一歩からだ。400m走もそうだ(?)。
 人の気配を感じて振り向くと、一人の背の高いジジイが立っていた。手には鎌を持っている。そして言ったのだ。
「嫌な音じゃなあ〜、大根が腐るがあ」
 わたしは思い出した。このジジイ、去年の夏にわたしがこの辺で夕焼けの写真を撮っていた時にも現れた妖怪ジジイ「ネジジモ」なのだ。ねじれた地元民の意味らしい(今、わたしが銘々した)。そしてその時はこう言った。
「こんな薮やら畑の写真撮ってなにするだ、おめえ、うちの枝豆を盗るんじゃねえど〜」
 そんな過去のいきさつも思いだしながら妖怪ジジイの顔を見ていると無性に腹が立ってきて「おめえんちの大根は霜に当たって最初っから腐ってんじゃねえか!」と思わず腕を振り上げそうになった。
 いけない、いけない「クラリネット殺人事件」になってしまう。思いとどめて知らんぷりを決め、思いっきりヴィーヴォー、ヴィーヴォー、ビィーと吹いてやった。ネジジモは鼻でせせら笑い「そりゃ屁の音じゃ〜」と言い残して去った。
 わたしの方はというと、感情的になりついマウスピースを噛んでしまい、リードの先端が少し欠けてクラリネットの演奏? はそれ以上できなくなってしまった。
 帰宅後、妻に話すと「殺せばよかったのに」とさりげなく言うので、今度会ったらそうしよう。

 インターネットで「クラリネットの吹き方」なぞを検索するうちに「ポケットクラリネット」ってやつに出会う。リコーダーの指使いそのままに吹けるらしい。ウフフフッ! だ。さらに「ポケットサックス(竹サックス)の作り方」というサイトも発見、ブハハハッ! だ。頭の中は「ポケットクラリネット」及び「ポケットサックス」でいっぱいになった。
 妻の予想は的中した。何度目の的中かは、多すぎてもう覚えていない。




             





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         活舌にいいかもしれない。


   のらり・くらり・クラリネット