可哀相な名前
07年07月19日(木)「 可哀想な名前 」

 デジカメ用の水中ハウジング(カメラを入れて水中写真を撮る透明のケースみたいなもの)を手に入れた。ヤフーのオークションをツラツラと見ていて安かったので衝動買いしたのだ。手持ちのデジカメでそのハウジングに入るものがたまたまあったのもラッキーだった。で、いつ試そうかと楽しみにしているのだが、なかなか天気が夏らしくならず、休みと雨が重なってばかりいる。嵐山あたりのきれいな川の中を撮ってみたいのだが、こう雨ばかりじゃ川も泥でにごっていそうだ。風呂に水を張り、以前娘が会社からもらってきた鯛とサンマとアジの模型(かなり精巧にできたショウウィンドウ用の模型ね)を泳がせて撮影してみようと試みたが、ちょっと悲しい気分になってやめてしまった。

「ナツグミっていうのを探しにキャンプ場あたりまで行ってくるわ」と妻が言うのでつきあうことにした。我が家では目的がある人が運転することになっているのでわたしは助手席、楽でいい。口も軽くなる(いつも軽いが)。
「グミって秋じゃないの?」
「ちょっと遅いかもしれないけど、7月に実をつけるナツグミっていうのがあるのよ。探してみてっていわれてるの春山さん(日本画の先生)に」
 妻は最近花や植物にすっかり詳しくなって、わたしもそう疎い方ではないがもうとてもついて行けない。窓から遠くへ目をやる。景色の所々にピンクの固まりが見える。もうムクゲの季節だ。
「ムクゲってさあ、なんかこうどっかの“毛”みたいで恥ずかしいよねえ」
「?……そうきたか。ラジオも壊れちゃってるからドンドン言ってみて! 噺家みたいにしゃべってくれるといいわねえ」
 車のオーディオが壊れていて音楽も聴けず退屈だから、代わりにわたしにもっとくだらない話やダジャレを言えというわけである。しかしだ、そういわれるとなかなか湧いてはこないのも事実だ。わたしは冴えを失った。最近は小型のヒマワリが流行っているがいっそのこと“コマワリ”っていう名にしたらいいとか、幼少の頃から家族中でマリーゴールドのことを“うんこ花”と呼んでいたとか、キンセンカを“金 千花”という人の名前だと信じていたとか、“茶園みどり”という名の知りあいがいたとか……わたしは汗をかきながら墓穴を掘っていったのだった。
「ああ、つまんなかった! お客さんみんな帰っちゃったわ! 噺家としてはまだまだねえ」
 あのなあ! わたしは噺家を目指してないって。

「そうでやんすねえ……、おたくの芸のために少し教えてさしあげることにしやしょう」今度は妻が噺家になった。
「おもしろいところでは“モッテノホカ”なんていう菊がございましてね。食用菊なんでやんすが、おもいのほか旨いっていう意味でしょうかねえ。サボテンの種類では“アアソウカイ”なんてのもありますが、まあこれなんかは名前がおもしろいだけのピン芸人みたいなもんでやす。ピンでよけりゃあ他にもいっぱいありますな。“ロケット”、“地獄の釜の蓋”、“ミッキーマウスの木”、“チャルメラ”なんてのもありまして……」
 わたしは目を丸くして聞いた。花の名にも驚いたが、いつ妻がそんな「山下達郎のDJ風」のしゃべりを学んだのか、とにかくそれに驚いた。
「よく見かける花ってことで言いますと“ママコノシリヌグイ”なんてのも渋いところですなあ。“継子の尻拭い”と書きます。トゲトゲのある茎で継子をいじめたんでしょうなあ。“イヌノフグリ”はご存じか? 恥ずかしいですなあ。犬の金の玉のことですから。勘違いしがちなのは“オオイヌノフグリ”。犬の大きな金玉の意味じゃなくて、大型の“イヌノフグリ(花)”という意味でございますよお。日本語はむずかしい」
 妻はウーロン茶を一口飲んだ。
「そうそう、忘れておりました。一番好きな可哀相なやつを思い出しましたよ。こいつの右に出るやつはありませんなあ、極めつきです。“ヘクソカズラ”ですよう。“屁糞蔓”という漢字がいいですなあ。可愛い花なのにどこが屁でどこが糞なのか嬉しくなります。ぜひみなさんもこの時期、探してみたらよろしい。お後がよろしいようで……」

 陰嚢(ふぐり)も屁も糞も尻拭いも今日中に絶対探してやる。わたしはもう少し勉強をしなければならない。人を笑わせるにはきちんとした知識が必要なのだ。ではまた。 




              




mk

ムク毛?

コマワリ?

継子の尻拭い

大犬の陰嚢

屁糞蔓
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