「 亀田さんち 2 」

 亀田さんちの次男坊はボクシングはまあまあだが歌は下手だ。ボイス・トレーナーの立場から言わせてもらえば腹筋が強すぎて腹式呼吸ができていない。筋肉が硬すぎると息が腹まで入らないのだ。硬すぎるとマズイのは食肉と同じだ。別に食肉扱いしている訳ではない。長男は次の試合できっと世界チャンピオンになるだろう。顔つきが少し大人になったような気がする。時間というのは偉大で、バカでも天才でも分け隔てなく大人にしてくれる、いいことだ。三男坊もオリンピックで金メダルを取るだろう。三男坊には多少の知性もありそうなので国民栄誉賞もイケルかもしれない。その時の総理大臣が決める賞だから丁度アホ総理に当たる確立が非常に高い。末っ子の長女も女拳闘士でデビューするかもしれない。世の中の状況はある日コロッと変わるから、オリンピックに女拳闘が加えられないとは誰も言いきれないのだ。
 亀田さんちはまさに順風満帆である。ボクシングがある限り幸福な日々が続くだろう。うらやましい限りである。死ぬまで1度も挫折を味わうことなくグイグイと突き進んでいく人生というのも世の中にはあっていいのだ。挫折を克服してこそ人間としてさらに成長する、というようなことを言う人がいるが、それは儒学的理想の概念であり、かつ凡人の自慰的願望である。亀田さんちはみんな野放しの天才だから陳腐な常識には当てはまらない。
 わたしはボクシングが大好きだ。半ばボクシング評論家と化している。どんなにつまらない試合でもテレビでやっていれば(主にケーブルテレビのスポーツチャンネルで)必ず観る。観ねばならないのだ。だから今後も亀田4兄弟の試合は自ずとわたしの目に入って来るだろう。だ、だからだ……頼むからさあ……亀田さんちの人々には口のきき方を少し勉強してほしいのっさあ。
 先日などは迂闊にもKOの後すぐにテレビのボリュームを落とさなかったものだから、彼らの“しゃべり”が耳に多量になだれ込んできてしまった。にわかに食中毒のような悪寒が走り、夕食で食べたものをすべて本当に吐いてしまった。
 



            





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亀田さんち 2