08年3月18日(火)「 カケスの谷 」

 裏山でカケスの姿を見た(ような気がした)日から2週間以上経ってしまった。本当にカケスだったかどうかもわからないまま、一体全体どこを探せばいいのかも分からず地図とにらめっこである。そもそも、自然が豊かすぎて“とっかかる場所”というものが無い。埼玉では最初、どんな風に始めた(アウトドアを)のだったのかなあ…と思い起こしながら「そうだ、まづは池や沼や川といった水辺だ!」と膝をたたく。魚はもちろんだが、鳥や獣も水辺に集まる。
 土気という土地は起伏が多く、大雨時などの対策としてあちこちの窪地に調整池が作られている。いくつか回ってみたが人工池とはいってもさすがに20年以上経ったものがほとんどで、葦原もあるしコンクリート壁ももうすっかり苔むし、実に天然な感じになっている。が、所詮ため池はため池だ。魚だって鯉ぐらいしかいないし、しかもほとんどはフェンスで囲ってあるので釣りもカヌーももってのほか。わたしは地図上の名も無い水色の四角形や台形に、かたっぱしから×点をつけた。ため池にため息だ。

 越智町の大藪池は最後の頼み。他とは規模が違う。外周が2〜3kmはありそうだ。池の縁はびっちりと葦で埋まっている。わたしはスーパーカブでなるべくゆっくりと流した。細長い形状の最奥にさしかかった時、わたしの目に2つの異様なものが飛び込んできた。1つは「谷」である。直径150mほどのちいさな谷で周囲はグルリと30mほどの崖に囲まれている。平地(ひらち)には不規則な形の小さな水田が多数あるが、崖の木々も水田もなんだか放ったらかしの状態で原野然としている。そしてもう1つは、その谷の入口に立てられたカラフルなアジ看板である。(後でわかったことだが、その谷にゴミ処理場を作ろうという市規模の動きがあり、それに抵抗して老齢の地主が形ばかり作田しているらしい)

 わたしはうっとりとして谷の入口に積んであった間伐材に腰を下ろし宙を眺め続けた。カナダとまではいかないが、半径50kmに他の人間がいないのじゃないかなどと妄想した。左の森から右の森へ黒い鳥影が飛んで木々の中へ隠れた。しばらくすると今度は後方の森からフワフワと現れたかと思うと、前方の杉林の中へ飛び込む。なんだか谷に迷い込んだわたしを、からかっているようでもある。何度か見るうちに目が鳥の動きを読めるようになってきた。黒いシルエットの中に白い点が一つある。わたしは“カケス”を図鑑でしか見たことがなかったが、それがカケスであることを確信した。。デジスコをセットする。予備で12倍ズームのデジカメ(FZ−5)を首に下げる。
 カケスは何度も谷を渡った。しかし老眼と体が追いつかない。見える範囲の枝にじっと止まってはくれないのだ。デジスコをあきらめて、せめて証拠写真にでもとズームデジカメだけにする。待つ、待つ、待つ。そしてたった1度だけ50m先の枝陰に止まったところを写したのが上の写真である。6時間ねばってこんなものしか撮れなかった。
 わたしはその谷に「カケスの谷」と名付けることにした。勝手に人の土地に名前をつけていいかどうかは「そんなの関係ねえ」だが、気に入ったものはしょうがない。湧き水がいたるところから湧き、水路には川ニナがたくさんいた。天然のホタルが絶対にいる筈である。わたしはここをホームグラウンドにすることにした。6時間の間に通りかかった人間、老人5人! ウグイスのボイストレーニングがうるさいぐらいだ。




               




mk
カケスの谷

これはネット上から拝借した写真。すみません。
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