「 鳩の糞 」

 先日、保健所の課長だという女性と昼飯を食った。
「駅とかに鳩がいるでしょう? 糞をするでしょう? ほんとうにいい迷惑でしょう? それにねえ、鳩っていろいろな病気を媒介しているいるのよね。“鳩の糞にお気をつけください”なんて貼り紙をする前に、なんで全部殺してしまわないのかしらねえ。毒を混ぜた餌ですぐ始末できるんだけどねえ」
 わたしは飯をもりもり食いながら聞いていた。「そうですねえ、ほんとうにねえ」などと言ってはみたが、ちょっと変な気分になった。世の中にはいろいろな人がいる。いろいろな立場の人がいる。いろいろな考え方があるのだ。無数の職業があるから、無数の職業病があるわけだ。病原菌を媒介する動物はすべて抹殺しなければならないと主張するこの女性は、わたしが猫を2匹飼っていることを知って「すぐ、うち(保健所)に持ってらっしゃい」と言った。
 それから数日して、千葉の方の公園で多数の鳩の毒殺死骸が見つかる事件があったが……、犯人は特別異常な人ではないような気がした。善良な一般市民の中のありふれた立場の人かも知れない。話の着地としては少々乱暴だが、たいがいその手のはデカダンスを理解しない。




            





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鳩の糞