裏庭がこれだけあると色々と遊べるはずだ
母を見舞う……ついでに
08年01月06日(日)「 母を見舞う…ついでに 」

 母の体調が芳しくない。高齢な上に、夏場の食欲不振の影響がでたのか寝込んでしまった。おまけに廊下で滑って腰を打ち、それが引きがねになってめまいの頻発、もうろう、etc.で倒れたりもして、現在時ほぼ寝たきり状態になっている。本人は肺癌の再発だと思いこんでいて訳のわからないうわごとを言い、帯状疱疹、老人介護問題、その他諸々のことが一遍に起きてしまっている今日この頃なのである。老人は元気そうに見えても、あっという間に萎えてしまうのだ。介護で通っている妻から毎日情報は得ているがわたしの訪問が一番の薬となれば、まあ、今日のところはひとつ……、泣く泣くではあるけれど……、バードウォッチングはあきらめて母を見舞うことにした。
 気分を変えて電車にする。ガソリン代より高くつくが、早いし時間が読めるのは安心だ。久しぶりの妻と二人きりの電車行なので、心配ではあるのだが母の病気の話しなどを延々としながら行くのはちょっともったいない気がした。もう十分状況はわかっているし、ジタバタしても始まらない。わたしは買ったばかりの「野鳥図鑑」をバッグから取り出した。妻はすぐに覗き込んできて、あれこれと口を挟んできた。「メジロじゃなくてメグロっていうのもいるんだぁ、メアカとかメミドリなんてのはいないの? メミドリじゃ輪が見えないか!」てなぐあいだ。おそらく……、誰も見てはいなかったが傍目から見れば「バードウォッチング」にでも出かける夫婦者にでも見えたのではないだろうか。陽は美徳である。
 2時間で千葉の土気に到着した。

「家が決まれば、すぐに(母が)元気になりそうな気がするけどなあ」
「おそらく……ね」
 母の近所に家を購入し、移転する話しが進行中なのである。わたし(及び家族)にとっては色々と条件的にはきついことも多いが、母の人生の最終項は家族全員に囲まれた幸せに満ちたものにしてあげたい。
「家の方は今どうなってんの?」と、わたし。
「3つぐらい候補があるんだけど、みんな(自分も含め、母、姉、娘)いろんなこと言うし」
 家を買った経験のある者は、反省・後悔含めて実にかしましいものらしい。
「あなた(妻)が好きなのに決めればいいのよ、どうせ最後はあなたのものになるんだし」
「…………」
 女共は本当にだめだ。わたしはとっくに家に関しての要望を捨ててしまっている。囲炉裏、土間、井戸、鱒が飼える池、etc、などという要求が通るわけはないし、第一そんなものを備えた家が無い。グチャグチャ言っている妻を尻目に、わたしは「よ〜し!」と思った。

 母の所まで歩いて行く道すがら、「ここも一応候補なのね」と妻が指さす家を2軒ほど見る。中古物件ということは決めているので、すでに庭木などが見事に育っているものは魅力的だが、その分古いとも言える訳で微妙だ。なかなか衝動が湧いてこない。変な言い方だが「衝動を喚起させる」という事は素晴らしい条件なのじゃないだろうか、なんちゃって。
 角を曲がれば母の所に到着、という場所に来てさらにもう1軒見る。メインストリートに面している。背丈1.5mのサザンカが4本植えられている。古くはない。築2年ぐらいだろうか。何らかの事情があって前の住人が急ぎ手放した……的な雰囲気があった。庭は2台の駐車スペースがあり、それ以外は芝生に被われている。日当たりが異常にいい。隣が現在時空き地だからなのだが、いずれ家が立ったとしても十分な庭の広さがある。これで妻が花たちを枯らすことはなくなりそうだ。芝生の上ならカヌーの手入れにもよさそうだ。スーパーカブの置き場所もあり、プレハブの作業小屋も持てるかもしれない。塀も門柱もブロックで手作りできるかもしれないし、そうなったら鹿児島にあった実家の門柱からひっぺがしてきた表札をそのまま付けて母を喜ばせてやれるし、実家にあった時計草の種を蒔いてみてもいい。わたしの留守中に何か異変があっても、表通りに面していれば助けも呼べる。セキュリティーは勿論セコムだ。「あれ買え、これ買え」と何かと社員にうるさいのだ。うんうん、悪くない。わたしは妄想した。

 母は思っていたよりずっと元気だった。というより回復に向かっているようだった。さらにわたしが来たことで顔に血の気が戻ったようだった。ベッドから起き出して、お茶や漬物の準備をしようとする。そのゲンキンさに姉が怒った。
「まったくもう、昨日まで死んだオバアチャン(母の母)や兄弟の名前をうわごとで呼んでいたくせに……」
 母は聞こえていないくせに(耳が遠い)、ペロッと舌を出した。聞こえていなくても言っている内容はわかるのであろう。
「まあ、今日のところは寝てな。これから度々来るようになるだろうから」
 やさしい言葉はソフトな言い方と声での方がいいのだろうが、なんせ母は耳がダメになっているので、わたしは腹に力をこめて大声で荒くれた男達の会話のように言った。ベッドの横に置いてあった東急リバブル(不動産屋)の紙袋に目をやる。購入候補の家の資料がたくさん入っている。
「気に入る家が無かとな? それともやっぱりこんな僻地に来るのは嫌な?」
 母が少しさみしそうに言った。その時だ、わたしの中を“根拠のある(?)衝動”が走った。
「あのなあ、家はな、もう決めたよ。ほら、すぐそこの、昔、スーパーがあった所の跡の」
「そうな、よかったよかった、引越しはいつな?」母は満足そうに笑った。妻は目ん玉をひんむき、泡を吹いて倒れた。

「中(間取り)を見ていない」「値段も聞いていない」「もう売れてしまっているかもしれない」その他諸々“ナイナイヅクシ”を解決するために不動産屋を呼ぶ。ほんのちょっとだけ、狭い気もするがどうせいずれは妻と二人きりになるのだ。30分間見て正式に決め、書類を作成した。妻がまた泡を吹いている。
 2月には引っ越しである。さあ大変だ。しかしわたしの心配はただひとつ、見沼(現在のわたしの遊んでいるフィールド)にいる「オオタカ(大鷹)」のまともな写真を今月中に撮れるだろうか、ということだけである。焦るなあ。




               




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表通りに面していることはわたしの必須条件なのだ
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