この荒涼観!
07年1月16日(火)「 原チャリに乗って 」

 4匹の猫との同居は続いている。というのも年が明けてから娘がまた研修のために大阪へ行ってしまったからだ。なので、またわたしは部屋の中で竿を振っている訳だが、そうそう猫と遊んでばかりもいられない。飽きた。

 去年の秋ぐらいに娘のバイク「ホンダ・ズーマー」が盗まれてしまった。若い連中にはもちろん、バイク窃盗団にも人気のあるバイクだ。中古でも高く売れる(らしい)。ズーマーはかつて親子で峠越えなどして遊んだこともあるし、娘にとっては大切な日常の足でもあった訳で、ショックは相当のものだったようだ。わたし自身もバイクを盗まれたことがあるので心情は痛いほどわかる。で甘々になったわたしは年明け早々に替わりのバイクを買ってやった訳さ。ただしまた盗まれるかも知れないし格好が云々など10年早い、という訳で中古の諸経費込みで7万円弱の普通〜のスクーターにした。通称“原チャリ”というやつだ。原動機付きのチャリ(自転車)という訳だ。とはいっても整備済み、クリーンアップ済みの“なかなかの堀出しもの”ではある。
 で、また盗まれてはいけないということで、留守中はわたしが預かることにしたのだ。久しぶりに妻と温泉ツーリングでもしようという腹づもりがあったのだが、この寒さである。妻はまったくその気にならない様子である。根性なしめ、女はダメだな、クックッ。動かさないでおくとバッテリーが上がってしまうぜ、とエンジンをかけた。

 エンジンをかければ乗ってみたくなる。いったん乗ってしまえば少しは遠くへ行ってみたくなる。わたしはいつも“ここではないどこか”の事ばかりを考えているダメな奴なので、癒しを求めてフラフラといつもの見沼田んぼへ向かった。日本画家の春山うめさんのために“ワビスケ(つばきの花)”を探してあげるという目的もあるのだが、それは「まあ、有ったら……」ぐらいのことだ。
 しかしだ、スクーターというのは実に恐いものである。発進も加速も速い。馴れてきたので時速60km出してみると、車体自体が軽いので、もし少し大きい目のジャリでも踏めばスッ飛んでしまいそうである。車体の剛性が低いので転倒したら一発で終わりだ。こんなもんに娘が乗っているのかと思うとちょっと心配になった。わたしがいつも乗っているスーパーカブは発進などは最低だがまだましだ。娘にもカブを買ってやればよかったなあ、と後悔しながらどんどん進む。話は逸れるけどスーパーカブはオンロードもオフロードもOkだからね。なんてったって郵便屋さんのバイクだ、街も村も丘も山も走れる。車輪がスクーターより大きいことと、車輪のスポークが振動を緩和しているのだ。

 突然、見たことのない風景が目前にひろがった。目測で2〜3km先にさいたま市(旧大宮市)の高層ビル群が見える。♪思えば遠くへ来たもんだ〜♪と歌ってみたが、実はそれほどでもないのだ、自宅から20Kmぐらいだろうか。見たことがないと言ったが、実はこの辺りに来たことはある。しかしその時は高速道路なんて無かったし、もっともっと枯れ草に埋もれていて殺伐とした風景だった記憶がある。しばらく…1年ぐらいご無沙汰していた間にここまで開けてしまったわけである。
「こうしてどんどんいい景色が失われていくんだなあ、山も川も海も僕たちの意思とは関係なく失われていくんだなあ……」
 先日、偶然立松和平氏を仕事先のロビーでお見かけしたことを思い出し、わたしは口真似をした(サインをもらいたかったが言えなかった)。高速道路ができるまでは大宮のビル郡の足元まで見えて、夕陽が沈む時などはいい写真が撮れそうに見えたものである(撮ったことはないが)。

 タンポポの開花が2ヶ月も早いらしい。暖冬のせいらしいが実際にちらほらと見かけた。しかし陽が傾くと気温はグンと一挙に下がる。ワビスケを農家の軒先から素早く盗み採り、演技半分「オ〜さぶ(寒)」と身を縮み上がらせて一目散に逃げ帰った。根性なしのジジイだ、まったく。


   




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