2013年12月19日(木)「12月の責任」

「貴方のホームページをスマホで見ると、表示エラーがたくさんありますよ」といった内容の、たいへん親切なメールをひと月ほど前にいただいた。そのうえ「ホームページビルダーというソフトで作っておられるようですが少し古いバージョンでしょうか。でしたら“レイアウト枠”は使わずに、こうこうしかじかすれば云々……」と、これまた丁寧に修正方法まで説明してくれてあるのだ。ありがたい事だなあ、なのである、本当に。
 
 おっしゃる通り、わたしが使っているホームページビルダーはとても古くてかれこれ10年ぐらい前のものだ。当然現代のスマホや携帯電話の画面表示には対応しきれていない。なのでそれらで見ると、文章部分に写真がかぶさって読めなかったり、そこにあるダジャレやバカネタの“落ち”がわからなかったりする、なんてことがあるのかもしれない。(わかっても面白くないことは多い。ハハ)
 一応以前から気にはなってはいたのだが術も無く、さらにモノグサというかスカポンというか自力では一向に手付かずになっていたわけである。ん?「一向に手付かずになっていた」という日本語は正しいのだったか? ちょっと変だ。
 ま、それはいいとして(無責任だね)、教えてくれた方にしてみれば「いつ修正されるのだろう?」などと期待しておられるかもしれないし、一方のわたしとしても「せっかく教えてもらった以上なるべく早く対応しなきゃ失礼ダロ!」といった類の義務にも似た責任を感じていた今日この頃だったわけだ。

 で、本日、意を決して朝の9時から部屋にこもってサイトの修正作業を始めたのであるが、いざやってみるといやはやこれがけっこうな量があって自分でもちょっとうんざりびっくりした。
 フィールドノートだけでも2004年から初めたので丸々10年だ。まったく元気いっぱい暇いっぱいだったんだなあコイツ(ワタスのことですけど)ってな感じである。ところどころで懐かしくなっておもわず写真に見入ったり、稚拙な文章に赤面して穴に入ったりするので作業はますますはかどらない。
 最近のやつだけ修正して他は時代のせいにして誤魔化そうかとも思ったのだが「待て待て、こういうつまらないものでも本名でやっている以上“責任”というものがあるだろうよ、アン?」と偉そうに言うおせっかいなスカポンオヤジが後頭部のツムジの右3Cmに いて(これもワタスのことですけど) 結局さいごまで頑張ってしまわざるを得ないのだった。ん?「頑張ってしまわざるを得ないのだった」も変な感じではあるが……別段おかしくはないか。そう、正しい日本語じゃないと今日はだめなのだ。なんといってもテーマが「責任」ですからネ。

 夕方の6時ごろにやっと一部を残して終了。あ、詐欺だ。「一部を残して終了」は終了じゃないでしょ! なんて野暮は言いっこ無しだ。まあ要するにすっかり飽きてケツを捲くってしまったわけなのである。
 正しさの追求を座右の銘にする内なるスカポンオヤジももうとっくに耐えられなくなっていて「泡盛大盛りモリモリもっこり〜!」などと叫びながら暴れているので、もはやヤツを押さえつけることなどできるはずもなく、わたしも促されて仕方なく階下のキッチンに下りていったのだった。
 そこには、ブランドものの鉄鍋に凝っちゃって、最近さらにいくつか買い込み、聞いたこともない名前の料理をレシピ片手に必死に作っている女がいた(妻だけど)。そして言うのだった。もう飲んでいるらしい。
「あら、終わったのかしら? めずらしく根をつめたのねえ、さぞかし面白いのかしら?」
「面白くなんかねえけど、まあ、やる時ゃやるからな俺は。責任問題だしな。上までいい臭いがしてたぞ、なんだ?」
「あッ、ドキッ、ああ……○○○○風○○仕立ての○○○○味パエリアなんだけど、水の量を間違えてベタベタになっちゃた。アハ、ごめんなさい。ごめんなさい。だから私の責任だから私が責任をもって全〜部食べるから……ごめんなさい。叩かないで!」
 オーなんてことだ。何十年ぶりかにみるシオラシイ妻の態度。“若奥さん好き”のわたしだが少しクラッとしてよろめいた。こういう時こそ男はやさしくしなきゃいけない責任があるような気分になってしまうのだった。
「もう齢だからな。歯も弱くなったことだし柔らかい食い物の方が実はありがたいんだ」
 などとホザき、そしてその後も渡哲也風のちょっとキザだがやさしい感じの夫を演じてみたりして一人悦に入っていたのだ。が、なぜか箸だけはパエリヤの具のイカや貝や海老方面に伸びていってしまって、次第にというか遂にというか「味だけはイケてるぞおまえ」などと、どんどんどんどん横柄な泉谷しげる風の夫に変身してゆくのであった。(泉谷は好きだけど)
 そしてついに、左手にコーレーグースを、右手に泡盛のグラスを持ちヒーハーヒーハー叫びながらグイグイグイとコブラ系うわばみ男と化してしまったのだった。
 
 女が突然斬り返してきた。目じりがやや吊り上り、その影響であろうか唇の両端も上方へ引きつりつつあった。白目に血管が浮いている。
「ちょっとー! 具がまったく無くなったら、あたしが責任をもってぜんぶ食べるって言ってるのに、それこそ不味くて食えなくなるでしょうがー!」
「あん? 海老が欲しいのか、ホレホレ、今日のはでかいし美味いな、ムシャムシャ」
「食うなよジジイ、具をホジクルなっちゅうの! あのさあ、さっきまでそこにいた渡哲也はどこへ行ったのさー! もう〜責任者を呼んでちょうだいよー!」
「♪ようこそここへ、パッエリヤ わたしの赤い海老〜♪」
「歌うな桜田淳子〜、なにがカムバックよ、責任者を呼んでちょうだいよー! 責任者を呼んでちょうだいってばー!」
 
 いったいぜんたい何の話をしておるのだわたしは。  
 
 
 しかしだ、妻はわたしよりまだ5歳若いぶん未熟者で完全なスカポンにはなりきれないのだった。せっかく楽しくバカバカしく酔っぱらっているのに唐突にまともなことを言うのだ。
「ブログに好き勝手に書くのはいいけどさ、書きっ放しはマズイんじゃないの? あの件はその後こうなりましたーとか、仲良くさせてもらってたあの娘は亡くなっちゃったんですーとか、あれは嘘でした法螺(ほら)でしたごめんなさいとか、ちゃんときっちり結果報告をした方ががいいんじゃないの? 書く方には責任があるよ。友達失くすよ」
 目の据わった女の台詞に逆らってはいけない。説得力があり過ぎて腹にこたえる。
 
 テレビをつけると猪瀬都知事の一連の辞職騒ぎを特集しているのだった。
「猪瀬さんは本当のことを言っているのよ。でもこれ以上ねばっていると他の大物議員たちの名前も出てきて、その人たちにも追求の手が及びそうなので『辞職してしばらく身を隠せ』と裏の世界から命令されたのよ。そうでしょう? そうでしょう?」
 そうでしょう? といわれてもスカポン頭には難し過ぎるが「猪瀬氏は今回、友達だけは失わないですんだのかもしれないなあ」とふと思ってみたりした。
 責任を全部ひとりにおっかぶせるのを何と言うんだったかなあ? そうだそうだ、たしか「いけにえ」だったなあ。うーむ、正しい日本語……ではないような気もするけれど「まあそれもいわゆるひとつの責任の取り方であるのだろうなあ」とわたしは政治家のような言葉使いでうなづいてみた。




                  




mk
責任感の強い犬というのも居ると思うのだ
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