タラレバは 楽しからずや 年の暮れ
06年12月30日(土)「 1・2・8 と 5・6・9 」

 最近、“フィールドノート”とは名ばかりで、単なる日誌になりつつあるこの場である。で、今日もその手の話だ。
 わたしは今日、生まれて初めて競輪の「車券」というものを買った。いや、正確には買ってもらったというべきだろうか。仕事の関係で新橋駅前の“ラピスタ”という会員制場外車券売り場に出向くことがあるのだが、今日もそうだった。そして今日は年に1度の“グランプリレース”があり、わたしは場内整理の手伝い、応援という訳である。もちろん会員ではないので本来は車券を買う資格は無いし、また興味も無いのだが、まあ悪い友達も非常に多い訳である。
「買ってあげるからさ、特別な日だからさ、ついでだからさ、やったことなくてもさ、記念だと思って誕生日の数字ででも買ってみなよ」
 何の記念日か分からないが、わたしはそそのかされるままに実に楽しく着順を予想した。が、競輪の“ケの字”も知らないので予想の立てようが無い。しかたが無いので誕生日の1月28日にかけた「1・2・8」とヤフーID(別にも合計4つある)にかけた「5・6・9」を買うことにした。三連単というやつで当たると配当がでかい。競馬の比ではない。

 わたしがギャンブルをやらない理由はたった1つだ。近親者にギャンブル狂いの男がおり、奴は結婚して以来25年間、1度も給料を妻に渡したことがない。夫婦で公務員をしているので妻の方にも収入があるのをいいことに、まったく家にお金を入れないのだ。住宅ローンもすべて妻が払っている。そして夫はボーナスもすべてギャンブルに注ぎこんでいるらしい。それだけでもにわかには信じ難い話だが、さらに最悪なのは2年に1度ぐらいの間隔でサラ金に500万円ほどの借金を作り、返済を妻にさせるのだ。それが今までに3回あったらしい。あきれて物が言えない。
「おかしい! おかしいよ、どういう感覚してんのよあんたら夫婦は?!」
 わたしは頭から湯気を出しながら「離婚しろ、早く離婚しろ」とその妻である女性に再三忠告したのだが、何が躊躇の理由かはしらないが現在に至ってまだ離婚していない。わたしが話をつけてやる、と何度も申し出たが「血の雨が降りそうだから」とその度に断られた。プライベートなことには違いないが人品卑しくあってはならぬ公務員である、監査組織みたいなものは千葉県には無いのだろうか。公務員も地に落ちたものである。
 と、まあそんなこともあってわたしはギャンブルをやらない。

 車券を買ってくれるという男は必要以上に忙しそうにしていたのだった。
「マークカード(購入用のシート)は記入ミスのないようにね小林さん、サッと行ってサッと買ってきますから」と笑いながらジェスチャー付きである。で、わたしまでなんとなくせわしない気分にさせられてしまった。なんか悪事をはたらいている雰囲気なのだ。彼も会員ではないので事実そうなのだけど、なにせわたしは初めて買うわけで、ほんとうに当たるとは思っていないし、つい面倒になって言ってしまったのだ。
「わかったわかった、いいや、1・2・8を1000円だけでいいや」
 1枚100円の車券を10枚、1点買いである。運命の分かれ道であった。

 そう、賢明なあなたはもう結果が想像できたでしょう。結果は「5・6・9」が来たのです。配当は約65000円。100円が一瞬のうちに65000円だ。わたしはあの時つい面倒臭くなったためにみすみす650000円を取り損ねてしまったのである。タラレバ、タラレバ、タラレバ……、タラとレバーを心の中でジュージューと炒めながら、わたしは人生を感じましたね。人一倍神様からチャンスをもらいながら、いつもそのチャンスを活かしきれないわたし自身の人生を省みましたね。人間の性(さが)を見ましたね。わたしなんかもう生きていてもしかたが無いような気分になりましたね。運を使い果たした自分に対して言ってしまいましたですよ。
「お前ははもう死んでいる!」

「ほんとうは当たったのにそんな上手な演技をしてどこかに隠しているんでしょう!」
 わたしの車券の話を聞くやいなや、開口一番妻は言った。わたしの外出時に屋探ししそうな勢いである。実にいいキャラだ。世の中にはさまざまな夫婦がいる。




            




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