4月3日(土)  夜桜
「桜をたくさん見た年は、今までの経験からしていいことがいっぱいあったような気がす
るのよねえ」妻の縁起担ぎに付き合うことにして、近所の公園で夜桜を愛でる。
 夜桜、夜桜、夜桜……口の中で何回か繰り返す内に、その言葉のリズムのせいか、子供
の頃の遠くてちょっと恐ろしい記憶がよみがえってきた。
「そういえば昔、田舎の方に『小桜組』というヤ○ザの組があったなあ」
 小学生になったばかりの頃だったか、年に何回もは行かない鹿児島市の天文館という繁
華街で、全身刺青の裸の男二人が血だらけになりながら殴りあうのを見たことがあった。
 父と母は、子供には見せまいとすぐに私の手を強く引いたので、その後の顛末はわから
ないけれど、小桜と聞くと赤い血を連想してしまう。
 今もその組があるのかどうかはわからない。確か中学に入るころには「解散」という新
聞記事を見た気もするけれど、まったく定かではない。
 案外、「夜桜組」とかに改名していたりすると、なんとなく義賊みたいで面白いなあ、
などと不謹慎な妄想に走る自分を抑えて地面を見ると、土の上に落ちた桜の花弁がまるで
雪のように見えて実に美しいのだった。
 それにしても「夜桜組」というネーミングはいいと思うんだけどなあ……。その手の組
織にもやっぱ「ホームページ」なんてのがあるんだろうかなあ、業種なんかが詳しく書い
てあるんだろうかなあ。
 う〜ん、夜桜を見ていると妄想が止まらない。
夜桜
フィールドノート2004