2012年3月12日(月)「 ウグイスの道 」
犬の散歩も2年近くやっているとだんだん飽きてくる。
もとい、散歩に飽きたわけじゃない。コースに飽きてきたのである。だいたい2時間を目安にしているが、徒歩で行ける範囲に限度はあるし、大平原サバンナを歩く訳じゃないので、道の組み合わせからしてもそうそう何パターンもコースがあるわけじゃない。
最近では空(いぬ)の方が「あ!今日はそっちですかい。3日前と同じですなあ? 同じコースは最低1週間は空けて欲しいところですけどねえ…」などとほざくのである。
「最近は藪をかき分けて行くなんてことも無くなりましたネエ、サラリーマン根性ですかね、父さん!」
すごい犬だ、わたしは絶句する。
「保守的である」「変化を怖がる」「改革・改善を嫌う」「冒険はしない」「やることやってりゃ、とりあえず毎月決まったサラリーがもらえるんだもんね〜ダ」という怠慢な考え方をサラリーマン根性と言うらしい。一度体に染みこむと死ぬまで治らない……う〜む、何でも知ってる生意気な犬だ、チクショウめ!
「わかった、どこへでも行っちゃるわい!」
本日、わたしは犬自身にコースを任せることにした。空は狩猟犬の血が騒ぐのだろう、嗅覚まかせで、より鳥獣の匂いの強い方へと進んでゆく。田舎なので当然1本道が多く、分岐で選択を間違うと、分かる場所に出るまでに4、5km余計に歩く羽目になったりする。が、まあ、それも今日は良しとした。
「ここ、一度入ってみたかったんスよ、父さん!」
「いいけど、大丈夫なんだろうな、え?」
行き止まりだろうと思っていた道へ進む。産業廃棄物や一般ゴミが不法に捨てられていて、妻や娘ならたとえ犬が行きたがっても目をそむけるような場所である。ま、女性は別の意味での危険もあるので仕方無いのだけど……。
50mほど進むと突然明るい農道に出た。
「クンクンクンクン、雉の匂いが残ってるぜェ、ワイルドだろう? クンクンクン、オッー! 狸もイタチもさっき通ったようですぜ、ワイルドだぜえ!」
“スギちゃん”の物真似をするなんてスゴイ犬である。タイムリーである。わたしは満足だ。手塩にかけて育てた甲斐があるというものである。
リードを外して、しばらく農道を行く。ビーグル犬は嗅覚の強さゆえにやみくもに獲物を追いかけ、行方不明になることが多々あると聞いているが、わたしはついついそれをやってしまう。家族にはいつも怒られているが、たとえ人間に飼われていても彼等が“野生や本能”を見せる一瞬が、わたしはとても好きなのである。
野外に放つと、俗に言うところの“スイッチが入った状態”になる。何かに憑かれたように走り回る。実に美しい姿である。マジな話「狩猟も有りかな?」と考えているが、妻と娘は卒倒するだろうなあ。
空は嬉々として初めての道を突き進んで行った。畦道、藪こき、林道、崖登り、また林道。
覚悟していたとはいえ、わたしは引きずられ過ぎてふてくされてしまった。
「ワイルド過ぎるだろう?」
「ギャグってのはね父さん、文章変えるとぜんぜん似てないもんだね」
おっしゃる通り! あんたはエライ! あんたが大将!
この日、今年初めてのウグイスを聴く。
mk
ワイルドだろう?