鹿児島中央駅

天文館

桜島

フェリーの中

むじゃき

ミニ白熊

偉人の塔

ノーコメント

緑化が進んだ


鷹ラーメン

試合の様子

ラ王を混ぜた

少し近い味

2014年07月24日(木)「 故郷は遠きにありて啜(すす)るもの 」

 妻がバドミントンの試合のために、三泊四日で鹿児島に行きたいという。
「よろしいでしょうか?」とバカに丁寧だ。こういう時は「@もうかなり期日が近づいているA行くことがとっくに決まっているBチケットだってすでに取ってあるC顎足(食費や旅費)はほとんど自腹だDダメだと言うと離婚届がさっと出てくる」ということなので、男は黙ってサッポロビールだ。
「時間があるようだったら、お友だちをあちこち案内してあげなさい。ラーメンや白熊ぐらいは奢ってあげなさいよ」などと答えておくと、お土産のランクが2段階ぐらい上がるね。
大人だなあ、わたしって。

 妻のバドミントンの腕前がすでにそんなレベルに達していたとは知らなかったが、同時に、各県の代表クラブが結集する決勝大会が何故に九州のいちばん端っこなんだ? とやや憤怒気味にクリビツテンギョウした。
 運営方針・開催主旨など詳細はよくはわからないが、いずれにしてもみんな足代(旅費)が大変だろうにと思ったのだ。東北や北海道からの参加者もいるわけだからなあ。
 予想はズバリ的中。ほとんど自腹なんだそうだ。わたしは「大変なんだねえ、金はある?」とだけ言った。
 ところがだ、妻から状況を聞いて今度は嬉しいビックリギョウテン。なんと、東京〜鹿児島間の航空券が今どきは5700円だというのだ。え〜っ! 昔の4分の1じゃないか。いつからそんな素敵なことになっていたのだったのだ?

 到着した日に半日強の余裕があるというので、妻に鹿児島市街巡りをレクチャーした。時間の制約があるのでそう多くは回れないだろうが、次の日の試合に影響が出ない程度の「てんこ盛り計画」だ。
 鹿児島はわたしの故郷である。離れてから42年もたってしまったとはいえ、多少はまだわかる。知らない新名所は地元で直にリサーチする方がいい。
 父の死を機に家も土地も売ってしまったから「帰省」という言葉がわたしの辞書から消えてしまった。知らず知らず鹿児島の地をもはや20年踏んでいない。
 5700円なら日帰りでも惜しくないなあ。今度行こう。

 妻からLineで一報が入る。
「飛行機は大丈夫でした」彼女は耳抜きが出来ないのだ。
「市内へ向かいます、暑いです、34度です」どうやら鹿児島をLineで実況中継してくれるつもりらしい。
 70歳ぐらいになったら一度一緒にゆっくり訪ねてみるかなどと話していたのに、くしくも今回のことで自分だけ行くことになってしまったものだから気を遣っているのだろう。写真がどんどん飛んでくる。
 鹿児島中央駅(昔の西鹿児島駅らしい)、桜島(昔より緑色になった気がするなあ)、そこへ行くフェリー(きれいになりましたねえ)、わたしの知らない桜島の裏側にあるモニュメント(長淵剛関係らしいがなんか変だ、エグい)、写真はどれもこれも変わってしまった故郷を写し出していた。しかし寂しさや悔しさといった感情はわいてこない。そのことの方がずっと寂しい気がした。

「今、天文館に着きました。“むじゃき”行きます」
 “むじゃき”というのは、まあ一言で言えば喫茶店なのだが、“白熊”というかき氷の元祖店なのですね。フルーツいっぱい、練乳いっぱい、氷いっぱい。頭が痛くなる甘い甘いやつ。似たような市販製品も“白熊”の名で売っている。白熊は鹿児島が元祖。

「申し訳ないです。ついに“鷹”です」

 写真を見て、わたしの中で小さなスパークがあった。それは舌の裏側で発火したようだった。小さな種火は炎をあげながらぐるぐると回り、欲望という名の本能を呼び起こすように全速力で飛び始めた。そして圧縮されたエネルギーは突然具現化され、わたしは脳の中枢を刺激されて多量の生唾を飲み込んだ。
 味に対する欲望がまだ残っていたことに震えた。それは体の芯にあたる部分まで落ちてゆき、熱を帯び鼓動しながら硬化し続けて、そして今にも爆発しそうなまでに膨脹していった。
ウーッ! 桜島がなんだ、天文館がなんだ、磯公園がなんなんだ。知覧がなんだ、指宿がなんだ、明治維新がなんなんだ。
ラ・ラ・ラーメンが食いてえーーーー!

 鷹というのはラーメン屋なのである。有識者によるラーメンアンケートでは必ず3本の指に入ってくる鹿児島ラーメンだが、ここ“鷹”はなにがなんでもわたしの一押しの店だ。
 写真をよーくご覧頂きたい。言いたいから何度でも言っちゃうが、鹿児島ラーメンというのはトンコツラーメンではないのですよ。スープは白濁してないのですよーーーーみなさん。
 “鷹”はラーメンの旨さはもちろんだが、大皿に大根とキュウリの糠漬けがド〜ンと置いてあって食べ放題、無くなると次の大皿がまたド〜ンと出てくるのである。今はどうかわからないがこれ目当てに来る客も多かったのだ。ライスだけ注文してこの糠漬けだけで昼飯を済ます学生たちにも、店主はかぎりなく優しかった。メニューもラーメンとメシしか無いのだ。わたしは帰省した際、いつも自宅より先にここにきたものだった。(※現在、この糠漬は無くなったそうです。小皿に一人分ずつ

 わたしは真剣になると俺になるようだ。オーレ!
 だから俺は、突然だがラーメンを作ることにした。妻がLineで送ってきた鷹ラーメンのスープの色を見て遠い記憶が蘇ってしまったのだ。
 スーパーに走り「ラ王」のしょうゆ味とトンコツ味とを買ってきた。安易といえば安易だが、いいじゃ〜ないの〜なのだ。スープの元を少量ずつ混ぜあわせてゆっくり調合し、色と味を見た。香道を真似て“味を聞いた”と表現しておこう。
 その時、俺は鷹ラーメンの初代店主の顔になっていたはずだ。数種類の調味料を大小の匙(さじ)ですくいとり、ラーメンドンブリの中にバサッ、バサッ、これでもかッ、これでもかッと放り込んでいった。いわゆる“調味料の嵐”というやつだ。そして“鷲ラーメン”が完成した 。もう一度言うよ「鷲(わし)」ラーメン。
 パソコンに鷹ラーメンを大写しにして、じっと見つめながら自分でつくったラーメンを食った。スライドショーにして名所旧跡なども見ながら啜っていると、やっとジンジンジンと俺の中に懐かしさが込み上げてきた。これでいいのだ、これでいいのだとつぶやきながら、最後の一滴まで啜った。故郷は遠くにありて啜るもの、ドンブリに涙が一滴落ちたようだったが、味はやっぱり、トコトン“ラ王”であった。


 俺がもし俺じゃなかったら、おそらく俺がやってることを見て「馬鹿だなこいつ」と思うと思う。





※「鷲」ラーメンの作り方
@麺はしょうゆ味の方のものを使います。
Aしょうゆ味の方のスープ調味料を80%、とんこつ味の粉調味料を30%の割合でまぜます。
Bとんこつ味に付いている調味オイルは全部いれます。
C味の素一振り。
D具は入れたとしてもチャーシューともやしと刻み葱だけ。他の野菜などを入れると味が緩みます。

 かなりいい線いってると思いますが、あくまで「鷲」ラーメンですからね。なお、残った麺と調味料を全部使って別のラーメンを作ってみてもぜんぜん駄目です。不味いです。だから実に不経済です。


                  






mk
啜ってもっとベイビー素敵にON MY MIND♪ 
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