やられてもうた!

肥料にしちまおう

バルーンペッパー助かる

やっと元通り

落ちたパラペーニョはピザに

馬鹿は高いところに

登りたがるというのは

本当のこと

物干し台が欲しい

家族で見つめた花 颯田靖
2014年10月07日(火)「 台風一過 」

「ガキの頃、台風一過を台風一家だと思っててよう……」なんてことを言う人が時々いるが、かっこいいなあと思うのだ。あ! いやいや、そんなことを言う人がじゃなくて「台風一家」ってやつがだ。
 英語で言えば「ハリケーン・ファミリー」だろうか? ……まあ分からないが、柔術のグレイシー一族みたいでめちゃくちゃ強そうだ。
 町中の木や看板をなぎ倒しながら走り回って暴れている。乱暴すぎて一般市民には嫌われてはいるのだが、やんちゃな奴等ほど格好いいのは世の常、ファンもたくさんいるのだった。
 さらにはトルネード・ファミリーやらサイクロン・ファミリーという、また別の暴れん坊一家もいて、それらがみんなご近所にかたまって住んでいるものだから、その近辺はいつも強風が吹いていて警察も近づけない。公安のヘリコプターは墜落させられて奪われてしまった。アナーキーなダウンタウン、治外法権地帯になってしまっているのだった。
 ある日、そこへ“正義漢”という名の烈風ミサイルを搭載した鉛合金でできた戦車の一群が忽然と現れた。いかにも重そうだ。表面は厚さ20mmのチタンを被せてあるという念の入れ様。デッキには“準政府軍カミカゼ・ファミリー”などと書かれてある。
 爆風3ファミリーは「来た来た来た〜! どこのどいつだ?」と嬉しそうに笑いながら色めき立った……。
 つまらねえな、SF小説の才能ゼロみたいだ。


 台風にまつわる事で印象深い記憶が2つある。ひとつは小学2年生位の頃のことだ。場所は鹿児島で、かなり大きな台風だった。ただでさえボロい平屋の二軒長屋だったし、海が近かったこともあって完全武装する必要があった。今のように避難勧告が出たからといって、逃げ込めるような鉄筋コンクリートのビルなどは無いのだ。
 屋根にロープを懸けて立ち木に結びつけ、雨戸は閉め切ってバッテンに板をあてがい、釘で打ち付けて備えた。屋根の要所要所には石を乗せて重しにした。自分たちの命は自分たちで守るしか方法が無い時代だったのである。しかし母子家庭や老人だけの家には皆で加勢に行った。そういう意味ではとてもいい村、いい時代だったように思う。
 六畳と四畳半の二間しか無い我が家だったけれど、母が大切にしていたオモトやサボテン類の鉢植えを部屋のほとんどが埋まるほどに並べて避難させ、人間様は2メートル四方のスペースで丸く固まっていたのだった。とっくに停電していたので灯りはカンテラ(ローソクのランプ)だったと思う。
 ガタガタと家全体が震えて軋み、雨戸は砂や小石を投げつけたような音で鳴り続けていた。ときどき何か大きな物体が飛んできて、屋根の瓦をゴンと割る音もしていた。いつ何が起きるか分からない、おそらくどこの家でも皆息をひそめて固唾を飲んでいただろう。
 そんな情況下で、なぜだろう、我が家では家族全員で今まさに咲かんとしている月下美人の蕾を、黙ってジーッと見ていたのである。
 あれは覚悟の行動だったのだろうか。家全体が浮き上がるようなすさまじい暴風雨の中、恐怖を忘れるための意図的な行動だったのだろうか?
 2時間ほどかかって花が開ききった時、全員で拍手をした記憶がある。同時に風が少しおさまって、それからわたしたちは静かな眠りに落ちていった。とても不思議な夜だった。目がさめると、雨戸の節穴から朝日が一条射していたのを覚えている。

 もうひとつは中学になってからの事。新築した家のすぐ横に、幅60メートルほどの結構大きな川(永田川という名だった)があり、まだ堤防も無かったので台風の度に氾濫の危機にさらされていたのだった。宅地造成の最初期だったので、家の周りにはまだ水田がドーンと広がっているような状況だった。で、台風だ。だんだんと風雨が強まり川面に白波が立ち始めると、川から用水路を伝っておびただしい数の魚が避難のために田んぼに入り込んで来るのだ。
 台風一過、大人も子供もこぞって田に入り、つかみ取り大会である。これは楽しかった、実に楽しかった。鯉も鮒も鮎も鰻も鯰も、何でもいたねえ。現在の鰻問題が嘘のようである。
 が、そのあとがいけなかった。獲られた魚は人間に食われるからいいけれど、食えないやつらはそのままそこに放置されるのである。自力で川に戻れるほど、お魚さんはオツムがよろしくないのである。お察しの通り、ウジとハエと悪臭の大発生、近隣に住む者たちは地獄を味わうことになる。いやはや臭いのなんの。
 後年、映画「キリングフィールド」を観たとき、次元が違うけれど、わたしはこの田んぼをつい思い出したりしたものだ。カルシウム分たっぷりで良い米が獲れる、と評判にはなったようだけど。
……な訳はないね。

 台風18号は引き際こそ早かったが、我が家は直撃をくらってけっこう被害を被った。
 トウガラシ類の鉢植えは妻がいち早く屋内に避難させてくれたらしくてホットしたのだが、徹夜勤務明けで帰宅し、庭へ回ってみて驚いた。葡萄棚が崩落、と屋根のアンテナが支柱ごと折れてぶら下がっている。
「スカイツリー恐るべし! アンテナぶらぶらなのに全局映ってるもんねえ。このままでもいいんじゃない?」
 妻は変なことに感心している。そうはいかんだろ!
 台風一過、わたしは屋根の上に立ち「ここに物干し台があると楽しそうだ」と真剣に考えながら、腰に手を当てコーヒー牛乳を飲んだ。それを見てカラスがアホーと鳴いた。
 本望である。





                  






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ヘクトパスカルはミリバールと同じ。
      1気圧は1013ヘクトパスカル。
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