大量のプチプチマットに包まれ、私が中学時代に使っていた顕微鏡が田舎から届いた。娘の夏休みの宿題用にとわざわざ送ってもらったのだ。
「プラナリアの再生実験」それが私の中学1年の夏のテーマだった。とは言っても半分は遊びのようなもので、せせらぎに足を浸けて仲間とはしゃいでいただけの様な気もする。
体を細かく切り刻まれても、2〜3週間もするとまた元の体に再生してしまうプラナリアという不思議な生物の話を娘にしたのは1ヶ月前だった。
「切り刻んでからどのくらいの期間で元に戻るか実験して記録したのさ、ガハハ」
「どのくらいまで細かく切っても大丈夫なのか試してみたのさ、切り方で色々な形に再生するからなあ」
「今思えば幼稚な研究だったけど、賞ももらったんだぜエ! ガハハ」
私の自慢話を聞きながら、珍しく茶化したりもせず娘はうなづいていた。何か頭の中を電撃が走ったようにも見受けられた。
女の子の割にはどんな生き物も平気で、昆虫採集や魚釣りをこよなく愛するわが娘は、その数日後にこう言ってきたのだ。
「わたしも自由研究の宿題にプラナリヤをやることにしたぞ、いいか?」
私は嬉しかった。いい娘を持って幸せだ、とバカ丸出しのおやじになった。
「お父さんがやり切れなかった研究をやるよ、切るんじゃなくてすり鉢でスッてみるよ、
ミキサーじゃミキサーがバッチイしママも怒るしね」
「それから、いろんな形に再生するってのが面白そうだから、頭が3つあるやつとかヒトデみたいなやつとかに挑戦してみるよ、犬の形ってのもよさそうじゃん、フフフ」
私は突然不幸なおやじになってしまった。
「う〜ん、この娘をまっとうな女の子にするには今後どう指導したものか……」
顕微鏡を前に、私の夏の宿題も決まったような気がした。
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