もう何もする気になれない

まだ12歳なのに
 
2022年05月02日(月)「心臓発作」

 朝05時の“オシッコだけ散歩”の時は異常は無かった。50m程離れた公園で、長いオシッコを2回して満足そうな顔で帰ってきた。オスの「空」は室内では用がたせないので、わたしが家に居る時は必ず“オシッコだけ散歩”に連れてゆく。
 それから1時間ほどかけて人間用(自分と妻の分)の朝飯を作り、そして食う。最後に犬たちに餌をあげて、そのあと本格散歩に出かけるわけ。そうしないと犬たちはすぐにもよおす(排便を)のでかわいそうなのだ。クソを我慢するのってきついものなあ。

 元気に出発したのだが、途中で「空」が歩くのがとても遅くなった。尻尾こそ立ってはいるがなんか辛そうなのである。少し近道をして早めに帰ってやろうと、長くてゆるい坂道を登り切ったところで異変が起きた。大丈夫か? と振り向いたわたしの目の前で「空」の足がもつれ、前のめりにバッタリと倒れ込んでしまったのだ。目が逝っている。失神状態。わたしは動転したが、心筋梗塞ではないかと妙に冷静に判断する自分も居て、片手で胸骨圧迫蘇生法を試みながら、片手で妻に電話をした。家人が居る日だったのがせめてもの幸運だった。

 5分で妻と娘が駆けつけて、かかりつけの獣医に連絡を入れると、やさしいかなすぐに連れて来なさいという事になった。「空」は初めこそ意識が朦朧としていたが、妻や娘の声を聞いたせいもあったのか意識だけはしっかり戻ってきていた。体が小刻みに痙攣していたが、やっと脳にまで血液がめぐってきたのか目をしっかり動かして状況を確かめるように家族の顔を交互に見ていた。犬もこのぐらいの年になると、人間の5歳児ぐらいの知能があるそうだ。
 とりあえず、即死だけはまぬがれたようだった。

 獣医はすぐに超音波で心臓を見始めた。
「腫瘍かもしれませんねえ、この弁の辺りが厚くなっています。私が飼っていたゴールデンも腫瘍があって、結局8ヶ月もちませんでした。動物の心臓移植ってのは考えにくいですものねえ」
 いずれそう遠くない日に、まあ言わば“普通の別れ”が来るのだろうことはわかっていたが、まさかこんなに急に異変というものが起きていいものなのだろうか?
 あと1年限りで仕事をやめて「空(ソラ)」と「星(キラ)」と3人でキャンプ旅をしようと思っていたのに、どうやらそれはもう無理かもしれない。わたしの唯一の友人は立ち上がることもできず、あんなに食いしん坊だったのに何ひとつ口にせず、目だけを力なく動かしてわたしの行動をずっと追っているのだ。話が出来たらもっともっと辛いだろうなあ、と思った。
 娘がなかなか病院から出てこないのでわたしは少しいらついていた。早く自宅の布団で休ませてやりたかったのだ。
「なにしてたの?」妻が代わりに尋ねた。
「先生と余命の話をしてた」
 
 痛かったり、苦しかったりするのは本当にかわいそうだ。
 

 小林 倫博