すごくいいシェードだ

ジミだらけだけど

これでやっと三分の一

枝やゴミを取り除く

すべて手でつぶした

腕力だけで絞った

添加物なしの砂糖

終了、雨が降ってきた

2014年8月26日(火)「 仕込み 」


「ちわ〜ご隠居、暇ですかい ?」
「お、茂吉っつぁんかい、見ての通りだ」
「あらま、珍しく忙しそうでやんすね! それにけっこうな力仕事だ」
「毎年毎年どうした訳か葡萄が大豊作でさ、搾って汁でも飲もうかと思ってさ」
「ずいぶん大量じゃねえですか、ん? そうか“仕込み”でやんすね?」
「仕込み?」
「一儲けしようってえ腹だねご隠居? よし! その話、おいらも乗った!」
「ち、違うよ茂吉っつぁん、汁を飲むだけだよ、近所に配るから多いんだ」
「いいや! 密造だ、葡萄酒の密造だ〜! み・つ・ぞ・う〜! ミ〜ツ〜ゾ〜! 光蔵〜! 」
「アワワワ〜ッ、茂吉っつぁん止めておくれ、勘弁して、声がでかいっつ〜の! 百叩き、市中引き回し、打ち首獄門だよ〜! なんでわしの名前まで叫んじゃうのよ〜! ダメヨ〜・ダメダメ」


 手入れらしい手入れは何もしていないのに、我が家の葡萄は本当に偉い。毎年のことだが、近隣の皆様がうらやむ量だ。
「間引いて大きな房にしたら朝市に出せそうなのに、まったく無精だわ」とか
「ほったらかしで袋がけしないからシミだらけになるのよ。ご主人にそっくり」
 などと言っているらしい。
 ぜんぜんうらやんでないじゃないか、大きなお世話だっちゅうの。
 まあ実際のところ、わたしを含め家族もまったく有り難がってはいない。庭仕事の合間に熟してるヤツを5〜6房つまんで食べるだけで、結局残りの実はボタボタ落ちてしまって地面にどっさり積もっている状態なのだ。蜂やら蟻やらカナブンは大喜びだが、自然発酵して近所迷惑な臭いの源になってしまうので毎年ちょっと困っているぐらいなのである。

 見てくれが悪いので近隣に配る訳にもいかない。かといって穴を掘って埋めるというのもなんだし、焼酎への漬け込みは意外と金がかかるし薄まっちゃってあまり旨くもなかった。干し葡萄はぜったい無理そうだ、ここはカリフォルニアではなく千葉のチベットなのだ、ハハ。
 で、ずっとやってみたかった事のひとつとして、今年こそ! の意気込みで「仕込み」に挑戦することにしたのだ。
 大阪弁風に言うと…「わいなりに何が一番ええかと考えてワイナリーに決めたんだすがな」となる。
 ただのダジャレですけどネ。フン。

「仕込み」って言葉には辞書的にも「醸造の準備をする」とか「醸造にとりかかる」という意味が正式にあるらしい。
 座頭市の仕込み杖(隠し刀)と子種を仕込むなどという下世話な使用例ぐらいしか思いつかない自分が実に恥ずかしい。
 他には@教え込む・しつける・教育するA飲食店などで材料の下ごしらえをする…などの意味があるらしい。

 ワイン造りで気になることのひとつに「酒類の仕込みは密造という犯罪ではないのか?」という疑問ある。わたしが長年躊躇していたのも多少そのことがあったからなのだが、どうやらもう現代ではその点はほとんど気にしなくていいようである。
 日本の酒税法は基本的に財源確保のための酒造メーカーへの課税制度としての存在であり、メーカーを保護するために個人の密造者を取り締まる、という法ではないのだ。
 適量を楽しみとして造る分にはだいたいのところ許されている(黙認されている)と言うことだそうだ。但し「売ってはいけない」が鉄則である。

 Web上には現在「密造酒をつくろう」とか「密造酒の楽しみ」とか大っぴらに謳ったサイトが無数にあるのだ。ショップ系では「秘密の醸造セット」などというものまで売っているし、旅館やホテルの単位で大量に仕込みをして、当宿オリジナルとしてお客に出すというところぐらいまでも今は許可が下りているらしい。
 ちょっとそうなると……、わたし的には物足りない気がしないでもないのだ。何故なら本来こういう事は、闇の中で息を殺し、秘密裡にこそこそと、犯罪者の気分になってやる方がより甘い愉悦に浸れるものだと思うのだがどうだろう。
楽しみは、多くは秘密の中にある。

 葡萄は自身が酵母菌を持っているので、絞り汁を瓶に詰めて冷暗所に1週間ほど置いておけば、黙っていても自然にワインになってしまうのだ。こういう果物は割りに多くて、森の中の木のウロで自然にできてしまった酒を猿酒と呼んだりもするのだ。
 ワインのアルコール度数を左右するのは糖分の量なので、目的と好みに合わせて砂糖を適量加える。受け売りだが、醸造における人為的な技術というのはその辺までだ。いいワインは、あくまで葡萄の品質と環境とタイミングによって作られるものらしい。
 発酵させ過ぎるとワインビネガー(お酢)になってしまうので、わたしみたいな「もうちょい、もうちょい」の過剰系の男は要注意だろう。

 和室の暗がりに置いた約7リットルの葡萄汁が、仕込んだ日の夜中に発酵を始めた。炭酸ガスが外に出られるように緩く蓋を締めているのだが、溜まったガスが1分に1回のペースで抜けてゆく時の音が実に優しくていいのだ。
 若くて美しい女性の微かな寝息のようで、気づいたが最後もう眠れなくなってついつい1時間ほども聞き入ってしまった。生録音すればよかったなあ。
 ワインは“生きてる酒”と言われるらしいが“息する酒”でもあるのだった。
 素人のおこがましい発言、とお許し願いたい。
 2週間ほどが完成の目安らしい。これからまだ、最終的な濾過と発酵止めの湯煎作業が残っているが、わたしのボジョレー・ヌーボー出荷は9月10日ぐらいだろうか。
 あ! 「売ってはいけない」のだった。




※追記

泥水といえば泥水

ちょっと透明度アップ

 上の左写真が8/26の深夜。ブクブクし始めた。音がするのだ、本当に。上の右写真が8/30。だいぶ沈殿物が溜まっている。試飲してみてアルコール濃度が低くて、酸っぱい。砂糖を追加しておく。味はもうワインそのもの。透明になるのだろうか?



                  






mk
わいなりに考えて今年はワイナリー
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