明日は我が身

※画像はイメージです 
2023年02月17日(金)「サンマを買いに来たオババ」

 当直明けで帰宅して、居間でビールを軽く飲みながら、昨夜放送された「警視庁 アウトサイダー」(テレビ朝日 木 21:00)の録画を観ていた。このドラマはコミックな部分とシリアスな部分がかなりスピーディーに展開するので、真剣に観ていないと話に追いついていけない。で、相当に集中して観ていた訳なのだ。?ビールなんか本当は飲んでちゃいけないのであった。

「あのー、サンマを売って欲しいんですけど…」
 かすかに声が聞こえた気がした。そして振り返ってわたしは1mほどぶっ飛んだ。ひとりのオババがヌーッと立っていたのだ。おまけに、ご丁寧に、妻のスリッパを履いている。玄関からちゃんとというか、礼儀正しくというか、まあ静かに、上品に入ってきたかのようだった。音を立てないように。

「てやんでえ、ここは魚屋じゃねえぞ、泥棒かてめえは、どうやって鍵をあけたんでえ、あん?鍵はかかってなかっただと? だからってふざけんな、玄関先で魚売ってる家がどこに有るってんだ、あん? そんなことも分からねえのかばあさん、ボケてんのかボケ!」
 わたしは自分のひるんだ醜態を隠すためにおもいっきり江戸っ子になった。

「おかしいわ、おかしいわねえ」
 追い出されながら老婆は指折り何かを数えているようだった。サンマの数だったのだろうか。
 まあ、土気(とけ)の町は今や老人の町だから、半呆けの方々がよく庭先にはいって来る事はこれまでにもあったが、スリッパ履いて正式(?)に訪問してきたのは初めてだ。サンマを買い置きしておけば良かったなあ。


※実はこれには後日談がある。そのオババ、我が家の斜向かいにあるブティック「アミ」に逃げ込んできて「あそこの家の爺さんはヤクザだ、怖かった、怖かった、ああ怖かった、餃子を売ってくれって言っただけなのに、ヤクザだよきっと」と半泣きだったそうなのである。どうやら、隣のタコ焼き屋に餃子がありはしないかと聞きに行ったのに、我が家に入った途端に目的がサンマにすり替わったらしいのだ。
 か、もしかすると、わたしが餃子をサンマと勘違いしたのかもしれない。となると、呆けているのはわたしということになりますな。てやんでえべらぼうめ!
 小林 倫博