庭に桜を植えるなら「一葉桜」がいいのだけど手に入らないのだヨ
2010年 5月 1日(土)「 桜のマニュキア 」

 前回は、せっかく家族全員で八重桜を観に行ったのに時期早尚だった、という話だった。なので、名誉回復のためにその後ちょっと研究し、満開指数(?)というか花の見頃を割り出した。秋元牧場について書かれたサイトは写真入りで多数あるのでそんなに難しいことではないが、写真を撮ることも今回の目的のひとつなので花弁の傷み具合なども真剣に考慮に入れなければならないのだ。
 で、4月29日、昭和の日が最適であろうと判断し、妻にもスケジュールを空けさせた。ところがだ! 憎っくき今年の天候不順である。28日に猛烈な風雨があり、それは29日まで尾を引き、結局花見は延期せざるを得なかったのである。

「あらら、やっぱり!」
 わたしと妻はほぼ同時に溜め息をついた。牧場の道がすべてピンクの花弁で埋め尽くされている。29日ぐらいがベストだろうという読みは正しかったようだが、なんといっても庭の自転車や鉢植えがすべて倒れるぐらいの強風に吹かれたんじゃ、ひとたまりも無かったようである。
 妻はカメラ片手に一人で何処かに消えてしまった。今日はお花見ではなく、お互いの絵のための取材なのだ。面白いもので、妻は花そのものの写真をたくさん撮る。比べて、わたしは花も好きだが、何か面白いものは無いか、何か他人が撮らないようなものは無いか、とモチーフを探す。ボロボロの朽ち果てかけた物置小屋などに出会うと、思わずヨダレが出てしまう。

 1時間ほどお互いの居場所を知らないまま自由に行動した。潮時かなと思い携帯電話をかける。
「どこ?」
「ここ!」
「あのさ、ふざけてないでどこ?いいの撮れた?」
「花弁が傷んでない白の八重、どこかに無かった?」
「あ、馬小屋の裏の土手を下った所に、丁度背丈ぐらいまで垂れた手付かずのやつがあった」
「ヘイ! そこ行きます。じゃ、そこで落ち合いましょ」

 合流場所からは駐車場が見渡せた。いつもは1組か2組の見物客しかいないが、さすがにゴールデンウィークである。30台ほどの車があった。バーベキュー屋とソフトクリーム売り場は結構な混雑である。わたしたちは行列に並ぶのをちょっとためらい、あきらめて藤棚の下で“夏みかんジュース(ゼリー?)”を飲んだ。妻が飲む前にジュースの缶をあまりよく振らなかったので、中のゼリーが細かく砕けていなくて飲めたのか飲めなかったのかよくわからないジュースだった。
「あ! 5回以上振ってからお飲みくださいって書いてあるじゃないか!」
「あらそう?」
「ま、ええっちや、肺活量勝負や、ジュボジュボ吸えばええんじゃき! まっこと中途半端な缶ジュースじゃのう、まったく」
 大河ドラマのせいで、最近わたしはすぐに坂本龍馬だ。


「今日は切ない、風の爪跡って感じねえ」
 妻がポツリと嘆いた。しかし、わたしはそうでもないぞと心の中で反発した。辺りが無数の桜の花びらで埋め尽くされていて、その花びらだってまだあまり変色していないし、これはこれで結構綺麗じゃないか、捨てたもんじゃないぞ今日は、と本当にそう感じていたのである。
「まあ、確かに風のせいで花は散ってしまっているけど……さ。そうだ! 爪跡にひっかけて“桜のマニュキュア”なんてタイトルで描くの……どう?」
 わたしは何も考えず、そんな戯言を言った。
「変わらないわねえ。不運や不遇でさえ“逆転の発想”とかなんとか言っちゃって、いつも言葉遊びで無理やり納得しようとしちゃうわよねえ、昔からパパは……。そういうのって本当は良くないんじゃない? 我慢は退化なんじゃない?」
 言われていることはなんとなく解かった。自分でもそう思わないこともない。が、それよりもだ、わたしは妻がわたしの人生をそういうふうに見ていたことを初めて知った。




               




mk
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花弁の道。風の爪跡にピンクのマニキュアを引いたよう

白っぽい八重桜は丁度いい見ごろ。毛糸のボンボン?のようだ。ボタン桜という名?

介護施設のみなさんが来ていた。やさしい気持ちになってしまうのは桜のお陰だ。

逆光で写す時は露出補正を+側にすると暗くならない。

大手鞠の花に小さなカナブンが来ていた。もう初夏と言っていい。カナブンは憎い。

小さい頃、こんな風景の中で育ったせいか涙が出て来た

明るすぎて描いてもアンドリュー・ワイエスにならない

牧場のだいぶ端の方の1本。遠いので独り占めできた。

なんという色艶。ちょっと気の荒い奴だが美しい馬だ。

昔、鹿児島の借家にはこんな馬小屋と納屋があった。
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