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「サクラ」って何十種類もあるらしい | |||
2017年04月13日(木)「最期のサクラ」
オフクロがおそらくもう駄目だ。ゆっくりとだが「最期の時」が近づいて来つつある。点滴だけで生きられるのはやはり長くてもせいぜい3〜4ヶ月なのだろう。 介護施設も、もう戻ることはなかろうと解約した。「いいんですよ」と施設長は言ってくれたのだが、入所を待っている人も何人か居るらしいし、さらにその間は部屋代しか収入を得られない(介護料が取れない訳です)施設の台所事情を考えると、そういつまでもあてのない帰還を待ってもらっているというのも心苦しかったのである。 耳はだいぶ前からとっくに聞こえていないのだが、薄く開いた目にはまだ光の強弱や動きが見えているようだ。変な言い方だが「かすかに」のちょっと手前……「少し生きている」といった感じだろうか。辛い。家族はとにかく、何でもいいから何か反応して欲しいのである。わたしは、姉がちょっと席を外した隙にオフクロの頬をつねってみた。嫌そうな顔をして眉間に皺をよせたが、わたしはそれが嬉しくて何度もつねった。親不孝者である。 わたしはサクラの小枝をオフクロの目の前でそっと振ってみたい(あげたい)という衝動にかられた。花類が好きだったオフクロを、最期にちょっとだけヨロコビックリさせてあげたいと思ったのだ。 しかし希望は叶わなかった。MRSA(薬剤耐性菌。入院中の患者に発症する院内感染の起炎菌としてとらえられている。)が見つかったため、現在も完全個室管理で外部から植物など持ち込めない状況なのだ。そして、そうこうしているうちに春の嵐が吹いて今年のサクラはあっけなく終わってしまった。例年よりもあっけなかった気がする。 「躊躇などしないで“やった者勝ち”精神でやればよかったかなあ」 きっとこの先ずっと、サクラの季節が来る度にわたしはこの事を思い出すだろう。 フォトフレームにサクラの写真を映して見せてもいいが、なんだか面白がっているようで、これまた親不孝の極みのようでもある。 |
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