「 老人とピストル 」

  アメリカ話第2弾である。
  ボブ・マーリーとの昼寝にも飽きたわたしが、次に見つけた遊びはというと「質屋巡り」であったのだ。
  サンセット・マーキスホテルを出ると、下りの長い坂道があり、その下あたりはダウンタウンになっていた。夜更けになるとそのあたりからピストルの音とおぼしき破裂音がしたりしてなかなかにスリルがあったのだけど、いざ行ってみるとたいしたことは無く、本場の(?)セブンイレブンがあったり、ポルノショップがあったりして結構やみつきになってしまった。
  夜のダウンタウンになれてしまうと、昼間の街なんか屁でもなくて1日中歩きまわってスタッフに心配をかけてしまったりしたが、何をしていたかというと「質屋巡りギター買い付け」だったわけだ。
  ジェームス・テーラーに憧れていたので、ギブソンのJ50というギターを探して歩いたのだった。それがねえ……、なかなか程度のいいのが無いのである。当時すでに日本からのギターの買い付けが盛んで「いいギターはみんな東京にあるよ」と笑われた記憶がある。
  それに、ロスは空気が乾燥しているから日本製のギターだってやたらといい音がして、アメリカに来てまでヤマハのギターを買わされそうになったりもしたけれど、結局J50は手に入らなかったのだった。
  何軒目かの質屋でギターを物色していると、ヨボヨボの老人が静かに入ってきてポケットからおもむろにピストルを取り出した。 
  スワ、強盗か! 先客のわたしは身構えたが、彼はものしずかにガラスのショウケースの上に 38口径リボルバーをそっと置き、店主はにこやかにそれを手に取って眺め10ドルほどの札を老人に渡した。
  わたしは唸った。アメリカだ〜! アメリカでなければ見られない光景だ!老人が質入れしたその38口径、わたしは喉から手が出るほど欲しかったけれど、それは所詮無理というものだった。
  質屋巡りでギターは手に入れられなかったけれど、ピストルを質入れする老人の姿、およびその光景はわたしの脳裏に強く焼きついて、今でもはっきり思い出すことができる。
 
  いつか日本の質屋で真似てみようかと思うのだけど、ニュースになりそうなのでやめておこう。


 追記:J50は買えなかったが、帰国間際に三沢あけみさんの弟さんがやっている「ハリウッド・ミュージックストア」という店でまたまた借金をしてオベーションのワインレッド一色の建国200年モデルを買った。日本初上陸のものだ。
 数年後、金に困って手放したが、このギターが巡り巡ってGONTITIに渡った(おそらくそうじゃないかと想像できる)。なんかとても嬉しい。