2010年12月28日(火)「 レンジャクを見た 」
わたしの住む土気(とけ)という町には「ハンドレッド・ヒルズ」という、お金持ちの住む高級住宅地がある。一軒が大体70m四方の敷地を持ち、お城のような建物と前庭のプール、テニスコート……といった具合だ。ロスのビバリーヒルズになぞらえて「千葉リーヒルズ」とも呼ばれたりするのはちょっと笑えるが、出来てから25年ほども経った今では実に落ち着いた雰囲気を醸しだし、中には苔むしたお屋敷などもあって成金ビカビカな雰囲気はあまり感じられない。ゆえにかどうか、車の交通量が極端に少ないこともあいまって我々貧乏人の格好のお散歩コースになっているのである。山ひとつを潰して造成しただけにヒルズの回りはすばらしい大自然、登り下りが多いのも適度なカロリー消費に役立ち、人間も犬たちも大喜びである。一般人の自由な立ち入りを許しているなんて、金持ちの丘だがなかなかに心の広い方々がお住まいのようで……かな?
あ! そんなことはどうでもいいのだった。
そんなヒルズを空(犬)を連れて散歩していると、赤い実をたわわに付けた大きな木をめぐって2種類の鳥がキーキーギャーギャーと激しく威嚇し合い、争奪戦をしているのに遭遇したのだ。片方の鳥がヒヨドリであることは容易にわかったが、すでにやや薄暗くなりつつある中で、もう片方の鳥の種類がまったくわからなかったのだ。
わたしはお散歩カメラ、12倍ズームFZ-5で手当たり次第に鳥影を撮りまくった。今や光学35倍ズームレンズなんてカメラがある中で“ミサイルに竹槍”みたいなところもあるが、シルエットだけでもと思ってシャッターを押し続けた。双方30羽ぐらいの群れである。飛び回る影に対して“流し撮り”のようなことも試みたのだがいかんせん薄暗い。声も聞きなれないものだった。
1ショットぐらいは……と予想した通り、まともに形が分かるのは上の1ショットだけであった。
レンジャクという鳥である。冬の渡り鳥だ。漢字では連雀と書く。キ(黄)レンジャク、ヒ(緋)レンジャクという種類がいる。色味からキレンジャクのようにもみえるがはっきりはしない。わたしは体が震えるのを覚えた。図鑑では知っていたが実物を見るのは初めてだったのである。鳥見鳥撮り熱がまたムクムクと頭をもたげてくるのがわかった。
居間の家族共用のパソコンにレンジャクの写真を映し出して、わたしは妻に聞こえるようにつぶやくのである。妻も最近ちょっとだけ鳥見に目ざめた。
「犬の散歩になあ朝晩で4時間も取られるとなあ、なかなか本格的なデジスコって出かけられないのよねえ。散歩にでっかいセットも持ち歩けないしねえ。35倍ズームのカメラにそろそろ買い替え時かも知れんなあ。今使ってるこのカメラにさあ、1.7倍に写る馬鹿でかいテレコンバージョンレンズを付けて首からぶら下げてヒルズの中を歩いてるとさ、監視カメラの下を通過するたびにカバーの中のレンズがジジッーと動くもんねえ。でかいカメラだと怪しまれるんだなあ。鳥以外には興味はないっつーのよ!」
妻はわたしの下心(高倍率ズームの新しいカメラが欲しい!!)を見ぬいているので、指を立ててチッチッというのである。
「パパの今のつぶやきには3つの嘘がありますね。1つめは犬の散歩は自分の意思で時間をかけて遠くに行ってるんだということ、私が全部変わってあげてもいいのよ。2つめは監視カメラはパパを追ってるんじゃないとおもいますね、散歩の人はいっぱいいるし。3つめは、そんないいカメラを持ったらパパは絶対悪用してお屋敷の中を覗くと思う。私は犯罪者の妻にはなりたくないし、空が泣くよ!」
当たっているだけに反論できないわたし……なのである。
mk