良い子のみなさ〜ん!
わたしはメダカじゃないですよ〜
カブはパンクするものなのだ
8月9日(月) 嵐山行
 フィールドノートを’96年の10月からつけ始めたので、もうかれこれ8年近く記録
が残っていることになる。先日ザザッと見てみて、まあいろんな所でいろんな事をして遊
んだものだと我ながら呆れたけれど、呆れながらもひとつの行動パターンを発見した。
 なあ〜んてね、たいした事ではないのだけど……、ここ数年いくつかのお気に入りのフ
ィールドを休日の度に巡回しているだけなのだ。これはいけないことではないのか? と
思ったわけなのだ。
 確かに何時いつ頃に何処に行けば、こんな面白い事、物に出会えるというのが自分の中
にデータとして出来てはきたけれど、やっぱり新しいものを求めることが大切なことじゃ
ないかと思ったわけで、歳と共に時間も体力も無くなってはきているけれど、マズイなと
思ったわけなのだ。
 憧れの椎名誠のように海外の辺境を旅する、と言うわけにはいかないけれど青年はやは
り「ここではない何処か」を目指さなければいけないないのである……ような気がする。
 さて、そんなことはさておいて(オイ、オイ!)、巡回コースのひとつである嵐山に行
って参りました。目的はズバリ! 「嵐山の清流に足を浸けて涼む」であります。
 渓谷の方は平日だというのに家族連れに占拠されているので、ちょっと外れた場所で、
汚れたままになっているフライのラインを洗いながらキャスティングの練習とフライの自
然な流し方の練習を少々。流れの中に立っていると、足にツンツンとオイカワの稚魚たち
がぶつかってくる。みんな2〜3Cmのまだ釣れない奴等だけれど、秋になったら釣って
やるけんね〜、と引導を渡してやった。
 最近のマイブームは「お経」である。時期的にタイムリーでもある。
 親父の葬式で浄土真宗のお経に感動した。それはまさに音楽であった。それまでの知識
では、お経なんて低い声でブツブツと唸るものとイメージしていたのだけど、浄土真宗の
それは「歌」であった。「真宗勤行集」という経典のようなものを坊さんからもらって、
見よう見まね、いや、聞きよう聞きまねで詠んでみているうちにコツがつかめてきて、妻
などが「上手い、上手い」と囃し立てるものだから調子に乗ってメロディーを譜面に書い
たりして研究した結果、今度は娘なども「天才、天才!」とおだてるほどになってしまっ
た。(けっして仏様を冒涜するつもりなどありません。)
 で、最近は電車の中などで経典を読んでいたりすると坊主頭と黒い大きなバックなどが
それらしく見えてしまうのか、電車の中でお年寄りの方が私に向かって手を合わせたりす
るので、さすがに「まずいな」と思うようになって、最近はもっぱら人のいないアウトド
アでそれを読む(詠む)ようにしているわけなのだ。
 嵐山の清流で十分に涼み、ちょっと木陰で超リラックスモードで休んでいると、50m
ぐらい離れた所でいきなりアベックがレジャーマットを敷きイチャイチャし始めた。そし
て、こともあろうことか女はブラジャーを外し日焼け体勢に入ろうとしているのである。
(見たくはないのだけれど、カブのミラーに映るのよこれが、いい角度?で!)
 私は厳かに、さらに厳かに「真宗勤行集」を詠み始めましたね。少しずつ少しずつ音量
を上げましたね。そのアベックがもう少し遠くへ行ってくれることを願いながら心を込め
て詠みましたね。私は元々は歌手ですからね、上手かったのでしょうね……。
 その二人はね、最初こそちょっとビックリしたようだったけど、全然離れていく様子が
なくてね、ず〜っと聞いていたのです。困りましたねえ、私は。
 で、結局「ショウシンゲ」という章を全部詠んでしまったのです。20分間です。
 私が詠み終えた時、アベックは二人で顔を見合わせて、そして男の方は「ありがたいお
経を聞いて、さらにお前を強く好きになってしまったぜ」という顔で女の胸をつつきなが
ら笑っていたのだった、のです。ナンマンダブ、ナンマンダブ、ナンマンダブ。
 馴染みのフィールドを巡回するのも、そう捨てたものでもないのである。 
フィールドノート 2004