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骨たちのハロー&グッバイ | |||
2017年08月05日(土)「納骨の儀」 オフクロ様の納骨のために19年ぶりに「墓」を開けることになった。当たり前といえば当たり前だ。 不謹慎と言われればそれまでだが、わたしは納骨の儀よりも“19年間も閉ざされていた墓の中の現在の様子”の方に興味津々だった。ジメジメとして薄暗く、カビや苔が繁殖し、所々で燐成分がかすかな光を放っている。そしてその上に地下系の虫や微生物、はたまた魑魅魍魎(ちみもうりょう)どもがのたくった跡などが残されていれば……納骨の儀と納涼の儀がいっぺんにできてしまうぞ、などと考えた訳である。 期待に胸を膨らませ、納骨の始まる(坊さんが来る)1時間半前に墓地へ向かった。 がだ、残念(?)なことに墓はすでに開けられていて、すがすがしい8月の風の中にオヤジ様の骨壺が鎮座していた。模様無しの白い壺だと記憶していたが、紺色の鳳凰の絵が描かれてあった。人の記憶なんていいかげんなものなんだなあ。 壺の表面にカビのような黒い点々が少しあったので、わたしは綺麗にしてやろうと墓にもぐりこみ壺を取り出した。ついでに蓋を持ち上げてお骨を拝ませてもらった。まだ風化もまったくしておらず、実にきれいな状態。真っ白な粉砂糖をまぶした上品な菓子のようだった。 わたしは「ハロー、母さんを連れてきたぞ」と言った。なぜ「ハロー」と言ってしまったのかはわからない。 坊さんが経を唱え始めると、後ろの畑でキジが鳴き始めた。一般的な「ケーン」ではなくてお経に合わせて「ココッ」「ココッ」「ココッ」と鶏のように叫ぶのである。そして坊さんがリン(鈴)を鳴らすと、さらに刺激を受けたのか「ココッ」の連射技などを披露してみせた。 わたしは納骨の儀などそっちのけで妄想を激しくした。あのキジはもしかしてオヤジ様の19年間の愛人で、オフクロ様が今度墓に入るんで悲しんでおるのではあるまいか? 嫉妬しているのではあるまいか? それとも陰の女としての役目をまっとうし、オヤジ様に最後の別れを告げに来たのかも知れないな、などと想像したのだった。 坊さんの白い着物の裾に、終始1匹の蠅がとまっていたが、アイツもオヤジ様の“天国単身赴任時代”の縁(ゆかり)の者だったのかもしれない。 オフクロ様の花柄の骨壺も無事収められ、墓は再び閉じられた。19年ぶりの夫婦復縁の瞬間であった。 わたしは手を合わせ、礼拝し、2人に挨拶した。 「グッバイ、今度お会いする時は、わたしも骨です」 なぜ「グッバイ」と言ってしまったのかは分からない。 |
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