2021年01月31日(日)「晴天の霹靂」
勤務先が病院であるがゆえに、それなりに危険なことも結構あると何度か言ってきたが、このコロナ禍の中、今回だけは本当にビビった。
ことの発端はこうだ。仕事仲間のTさんが29日の夜勤中に、ドクターからの緊急連絡を受けた。
「暴れている患者(男性)がいるので抑え込むのを手伝って欲しい」
真面目なTさんはやりかけの仕事を放って急いで現場に駆けつけた。患者は興奮状態で動物のように唸っていたという。薬物か神経系疾患かは分からないが明らかに尋常ではない。Tさんは渾身の力を振り絞って足をおさえ込み、また時には柔道の抑え込み技の如く患者の動きを制止し続けたのだという。15分程も経つと汗だくになり、額からポタポタと滴が垂れるほどだったらしい。当然患者の方も汗だくで、お互い相手の吐息や汗を浴びるだけ浴びると言った状態が続いた。
そして、実はTさんはそこまで何も知らされていなかったらしいのだが、ドクターと看護師長の会話からあるおぞましい事実を知るにいたったのだ。
「今自分が抑え込んでいる相手はどうやら熱発しているらしい、しかも38度ほどの高熱であるらしい、コロナの感染者である可能性が非常に高いのではないか?」
結局、患者は隔離病室に強制入院させられて、検体採取、PCR検査を受けることとなった。夜間は普通はこういった患者は受け入れないが、救急隊のたっての収容依頼だったようだ。
Tさんは手を洗い、顔を洗い、歯を磨いてうがいをし髪まで洗ったという。下着を全部変えて看護師長の指示を待ったが、何の連絡もなく遂には翌日の朝を迎えた。我々の勤務は当直(24時間勤務)制なのである。念の為に報告すべき所にはすべて報告し、事務的な手続きは完了させた。しかし一度膨らみ始めた不安と焦燥は限りなく膨張し続ける。
理由は分からないがその患者は検体の採取をも拒み、無駄な時間だけがむなしく過ぎてゆく。もし陽性の結果が出ればTさんは濃厚接触者として2週間の隔離だ。途方に暮れるよねえ。
そんな明けの朝に、グッモーニン(ウィッキーさん風)などと言いながらやってきたのが次の勤務者、わたしである。昨夜起きた事の詳細な説明を約1時間にわたって防災センターの一室で受けた。わたしは、迂闊と言えば迂闊だが、わざわざTさんとの間にソーシャルディスタンスを取ろうという発想も全く無く、今そこにある危機にも気づけずにヘラヘラと聞いていたのだ。件の患者が陽性と出た場合はおそらくわたしも濃厚接触者となるであろうというのに。
夕方になって患者の親族が呼ばれ、病院側と共に説得し、なんとかかんとか検体(唾液とか口内成分)が採取できたという連絡がやっとわたしの元にに届いた。結果は明日の午後だと言う。
千葉県は医療がかなり逼迫しているので、おそらく濃厚接触者といえど自宅療養ということになるだろう。これが厄介だ。どれだけ気を付けたとしても、結局は家族を危険に晒すことになりそうである。食事はどうするか、トイレはどうするか、風呂はどうするか、すべてに於いて共用はきかないのである。5部屋6部屋と有るならいざ知らず、自宅待機は問題山積みであろう。
こんな事になるとは夢にも思わなかったが、いざとなったら軽キャンパー(そんなええもんじゃない)で2週間暮らそうと考えて、あらゆる生活雑貨をハイゼットカーゴに運び込んでシミュレーションをした。いつでもどこにでもキャンプに、日本一周にだって行けそうな状態である(笑)。それはそれで嬉しかったりしたけど。
責任者から連絡があったのが今日の13時過ぎだ。奴は「陰性」だった。
妻と娘にラインを送って、とりあえず安心してもらった。わたしはW豚味噌の会”の玲奈ちゃんが送ってくれた誕生日祝いの「胡麻焼酎」の封を切り、何に勝った訳でもないのにひとり祝杯をあげた。良質のアルコールはすぐに効いて、わたしは夕方まで車中で昼寝をした。
コロナさえ無かったら「濃厚接触者」ってちょっと艶っぽい言葉よだなあ、と夢の中で考えた記憶がかすかに残っていた。不謹慎な男だ。
(追記)
意識の低い陽性患者が多いのに驚かされる。現在発熱患者は別の入口から入る決まりになっているにもかかわらず「わたし陽性患者なんですけど〜、頭痛いんで薬もらいに来たんですけど〜」などと平気で正面玄関から入ろうとするやつが居たり「ちょっとなら大丈夫なんでしょう?」とほざきつつ駐車券の割引検印を受けに来たりするのだ。わざとやっているか頭が悪いとしか思えない。分かっていて他人にうつすのは犯罪である!
自粛に関してもそうだが、現代人って潜航できない奴ばかりなんだねえ。
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