片貝漁港で日焼けしすぎてタコオヤジになった。
嬉しい!
08年5月27日(火)「 粘り勝ち? 」

 満を持しての九十九里初釣行である……というのは嘘。たいした準備もせずに気分で出かける。ヤフー辞書で調べると、「満を持して」というのは「弓を十分に引いて構えるの意。転じて、準備を十分にして機会を待つという意味」だったんですねえ。満潮が14:00(小潮)で都合のいい時間だったことと、オークションで買った安物の竿が届いたことと、この上ない天候がタイミング的にピタリと合ったのだ。ちょっと不真面目な気もするが、今日を釣らずしてなんとする、いざ。

 とりあえずは片貝漁港に向かう。初釣りとはいっても場所(ポイント)は決めてあった。作田川に直接つながる水路、すなわち港の入口の回りである。頻繁に船の出入りがあるので、その度に竿を上げなければならない。よって地元の人間は誰一人としてその近辺で竿は出していないようだった。しかしだ、下見の段階で1箇所だけ竿を上げる必要の無い場所があることにわたしは気付いていたのである。盲点である。そしてわたしの目論見では潮のふくらみ具合からいって、そこには魚が絶対に溜まっているはずであった。
 何のためらいもなくサクサクと準備を始める。堤防のもっと突端方面に向かうオッサンたちが通りがかりに声をかけた。
「おたく、初めて来たの? ここは釣れねえよ」
 わたしは世界のナベアツの3の倍数のアホ面をして「遊び、遊び」と答えた。

 11:00、青イソメの匂い懐かしく記念すべき第1投目をぶち込む。満潮前3時間、ゆっくりと上げ潮が始まっていた。魚どもの食欲が増し始める……筈なのだが筈はあくまで筈だった。反応なし。
 12:00、まだまだ先は長いぞ、とわたしは余裕をぶっこいて細かく仕掛けを投げては海底の様子を探った。ところどころに小さな窪みがあるが、おおむね緩い傾斜をもった砂地である。予想通り船の通路付近が駆けあがりになっているが、砂地なので根がかりはしない。ほぼ1mずつずらして探ってゆくとわたしの頭の中には海底の3次元図面ができあがった。だからといって釣れるわけではない。潮が動いているのに釣れないということは魚が居ない? 
 13:00、さらに海底を細かく探る。他の人がここで釣らない理由も見えてきた。魚が川に入ろうと膨らんで回遊してくるまさにそのポイントには、藻や細かいゴミが溜まっているようなのある。仕掛けに浮遊物がからまると魚はもう絶対に食いつかない。わたしは考え込んでしまった。藻の隙間をねらって投げ続けるが当たらない。魚が本当にいないのかもしれない、勘が外れたのかもしれない。あきらめかけたその時、目の前に海鵜がやってきて潜り、15Cmほどのカレイをくわえて上がってきて、わたしに当てつけのように飲み込んでみせた。しかも10回連続でだ。魚はいた訳である。
 わたしは釣りばりが藻に引っ掛からないよう、つまり餌が海底スレスレを漂うように細工をした。堤防に落ちていた発泡スチロールを2mm角に刻んではりの根元に取り付けたのである。
 13:54、待望の1匹目。大きなハゼである。正直言ってハゼが釣れるとは想像だにしていなかったので、一瞬メゴチに見えて堤防の上で踏みつぶしてやろうかと思ったが、かわいそうになって記念写真を撮る。これが最初で最後の獲物になるような気がして(弱気だ!)キープせずに逃がしてやった。エサを少し浮かせる作戦が効を奏したのかどうかはわからぬまま続行。
 14:31、ガツンと来た。27Cmのイシモチ。俄然やる気が湧いてくる。人間というのはつくづく見栄っぱりである。回りを見回し、再び世界のナベアツの3の倍数の顔になってヘラヘラと笑う。イシモチは釣れ始めるとたて続けに釣れるので妄想に支えられながら続行。が、その後音沙汰なし。
 暇(?)なのでイシモチをさばく。クーラーボックスも無く、塩も忘れてきたので開きにして干物にする作戦だ。こいつは何が何でも持ち帰り、酒の肴にしなければならない。
 あまりに釣れない時間が長いので、飽きてきた。餌を余らすのも腹立たしいので1本のハリに5匹ぐらいアオイソメを付けて「持ってけドロボウ」などと叫びながら投げる。なんとなくこれまでの自分の人生のような気がしてアオイソメ君に謝ってしまった。釣りの途中で気を散らして遊んでしまったのは初めてのことである。
 17:22、夕日の中で15Cmのフッコが生意気にも“エラ洗い”をした。今日の釣りもそろそろ終わりである。また海鵜がやって来てカレイをバクバク食って見せた。これもまた人生のようでもある。今度は鵜飼いでもやろうかなあなどと25%の達成感と75%の無情を味わいながら回りを見渡す。
「あらら! もう誰一人いないじゃあ〜りませんか!」


 イシモチとフッコは塩焼きになって食卓に乗った。妻も娘も箸を出し、何年か振りの海の幸に舌鼓を打った(大袈裟だ)。
「やっぱなあ、釣りは“ねばり”だなあ。今日はまあ“粘り勝ち”ってとこだな」とわたしは子供のように得意気に言った。妻と娘は顔を見合わせ怪訝な顔をしている。
「7時間もいて、タコみたいに日焼けして、それでたった3匹じゃ“粘り負け”じゃないの?」
「ガ〜ン……たった? たった3匹?」
 我が家の女共は本当に馬鹿だ。まったくワカッチョラン。もういい、わたしは次からはラテ君(4匹いる内で唯一無類の“魚好きのオス猫”)と酒を飲むことにした。




               




mk

船が頻繁に通る

ここを釣らずして……

巨大なハゼ

27Cmのイシモチ

かわいそうなフッコ
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