「 なんちゃって小父さん 」

  芸能界にいた間で1度だけ「嘘」をついたことがある。恥を忍んで書く。
  なぎら健壱さんのオールナイト・ニッポンにゲストで出させてもらった折り、まるで今見てきた話のように“語って”しまった。「なんちゃって小父さん」を実際に見たと嘘をついたのだ。

「 なんちゃって小父さん 」というのは、覚えている人も多いかも知れないが……ん?、説明しようと思うのだが自分があまりよく覚えていない、見てない証拠だねえ。え〜と、電車の中で席に座りたい小父さんがいるのだけど、混んでるので座れない。そこでその小父さんは腹痛かなんかの仮病を使う訳ね、親切な人がいて席をゆずってくれるのね、それでその小父さんは、席にかけた途端にチロッと舌をだして「な〜んちゃって!」と言うのである。
  あれ〜?そんな話だっけ?ぜんぜん面白くないなあ。
  まあいいや。それで当時この「なんちゃって小父さん」の話はラジオやテレビでまたたく間に広まり、芸能人でも「見た見た」という人が続出したものだからますます信憑性を帯びてしまい、山手線で見たとか中央線に出没したとか大騒ぎしたものだった。
 実際名もなき劇団員などが後乗りで車中演技したケースもあったと聞くが、わたしはそういう2次的なものすら見ておらず、まったくの嘘であった。すみません、もうしわけない。
 
 ステージなどでもかなりの箇所で話したので相当に罪は深い。
  1年ぐらいたってからニュースなどで「なんちゃって小父さん」というのはまったくの作り話で、ある人物がそういった噂の広まり方の研究のために仕掛けたものであったことが発表になった。とすると「見た見た」と嘘をついた人たちはわたしを含めて、恥ずかしい限りの穴があったら入りたい状態になって、自己嫌悪地獄だ。
  わりと最近の「口裂け女」や「半魚人」なども、正式には「都市型なんとか」というよくある社会現象らしい。そうだ都市伝説だ。人は心のどこかに必ず弱点をもっている。その心の隙間ともいえるポイントにそうした魅力たっぷりのストーリーが完全に入り込んだとき、人は自己暗示的にマインドコントロールされる訳である。フッフッフッ、こうしてだんだん難しいことを言い始めて、相手を煙に巻いて自分の罪をごまかそうとしているのだ。バレバレ?