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いったい誰が悪いのだろうか | |||
2017年02月14日(火)「妄想バレンタイン」 毎年思うのだが、バレンタインデイにもらう義理チョコ、もうそろそろ本気で止めません? わたしは全然ケチではないが“お返し”のことを考えると結構気が滅入るのだ。 そして今年もとうとう2月14日がやってきた。職場には朝から続々と紙袋が届き、言い方は悪いが、義理だからみんな似たりよったりだ。 「どうもどうも、わざわざすみません」 そこかしこで義理が飛び回っている。たまには人情も飛ばせっちゅうんじゃ! ところが今回である。ふとドアの外をみると一人の女性がなんだか隠れるようにして立っていたのである。まあ普段からそこそこ仲良くしてもらっている女性だが、恥ずかしそうに紙袋を差し出すではないか! その仕草があまりにも可愛いので、わたしは思わずベロベロと彼女の顔を舐めてしまった。まあ…嘘だ。んなことしたら犯罪である。 彼女は26歳、とても可愛い療法士(リハビリ科の)さんだ。義理チョコすら期待していなかった相手なのでわたしはぶっ飛んだ! そして照れた! イチコロリ〜ンである。 バレンタインデイの裏舞台。セコい話だが、男たちはホワイトデイのお返しのこともあるので、もらったチョコがだいたいいくらぐらいの物なのか詮索する。特に最近はネットで調べるとすぐに且つ確実に分かるので便利である。さすがにいちいちメモったりはしないが、記憶の片隅にはしっかり置いておくのだ。 そして……26歳の彼女がくれたチョコを調べてみて、わたしは再びぶっ飛んだ。 「ドゥバイヨル ハイクレア ティータイム」というものだった。9粒入っていて¥8250だ。別の店では同じものがなんと¥11466であった。 「義理にしては気合が入り過ぎていないか? もしかして本気なんじゃないか!」 愛に値段をつけることは出来ないが、値段に愛を込めることはあるだろう。 そして妄想はここから始まった。 さらに調べてゆくと「バレンタインデイ 本命にあげたいチョコレートNo.1」でもあったのだ。もう疑う余地は無かった。ついにやってきたわたしの「モテ期」。 夜になってお礼のLINEを送ると「私の好きなチョコだから小林さんもきっと好きかと思ってウフフ」と返事が来た。もう絶対絶対疑う余地などもち無い無い。言葉使いが変になるぐらい上気した。 この作文は実は4月に(今)書いている。だから日付は2/14だが話は大きく飛ぶのである。 3月14日のホワイトデイに何を返すべきか、わたしは大いに悩んだ。一説によると2倍返しが当たり前とあったのでさらに悩んだ。わたしはそっち方面には特に疎い。で結局¥5000強のゴディバのチョコレートと全国百貨店共通商品券¥10000分を用意した。商品券をあげるというのもまったくもって野暮とは思ったが「わたしに買ってもらったと思って自分で好きなものを選びなさい」というセリフも一緒に準備した。 「じゃあ小林さんに買ってもらったと思って可愛い指輪を買うね、一生持ってるからね」 妄想は止まらない。もうそう簡単には止まらないのだ。 ホワイトデイの2日前に「お渡ししたいものがあるので」と連絡を入れると「わたし、しばらくお休みです。次の出勤は21日です」と奇妙な返事が送られてきた。ずいぶん休むんだなあ……初めはそのぐらいしか思わなかった。 人間の「勘」というのは不思議である。そして強力でもある。何の予備知識が無くても、神経が発する微弱な電流が竜巻の形で絡み合い、上昇しながら頂点に達した時、ある一つの決定的なシーンを形成してみせるものなのである。 「あ! 結婚だ。おそらく海外で式を挙げてそのまま新婚旅行に行くパターンだ」 わたしは直感し、そして直後に奈落の底に突き落とされた。 「なんで〜、なんで本命にあげたいチョコレートNo.1を義理チョコに使うんだよ〜!そもそもそこが間違っていま〜す〜」 悲痛な叫びにはエコーがかかっていた。ひどいもんだぜ。 しかしながら、それでもまだ揺れ動くジジイの心。世の人々はそれを未練と呼ぶ。 「いや待てよ……もしかして……私は、決まっていたことだから結婚しますけど、今一番愛しているのは小林さんなのです。これだけは言っておきたかったのです……ってことかも知れん、ああ悲しい話だなあ、人生は重い荷物を背負った彷徨いのようだなあ」 人間は、死の恐怖から逃れる為にボケるのだという説同様、妄想によって救われようと試みる生き物なのかもしれない。 「キャハハハ、それで会長、用意したゴディバと商品券はどうしたんですか?」 豚味噌の会の玲奈ちゃんに事の顛末を話すと抱腹絶倒地団太踏んで笑った。失礼な奴だぜまったく。 「『ホワイトデイと、ちょっとだけどお祝いも入れてある』ってセリフに変えて渡したさ」 「かっこいい〜! で彼女は?」 「『え?なんで知ってんの?』ってびっくりしてた」 「あらら、あっけらかん。で?」 「渡すもん渡して、走って立ち去ったよジジイは」 「ククククッ、会長かわいそう」 笑ってんじゃねえかよ、まったく! 玲奈ちゃんは笑いこけながらも携帯で熱心に何かを調べていた。そして言った。 「会長? ドゥバイヨルってそんなにしないですよ。会長、価格ってのはその会社のホームページで調べないとダメです。人気が有ればあるほど通販の小売店は盛りますからね。ほらほら¥3600じゃないですか!」 「え?……嘘」 「プププ有り得ないです、プププ会長はきっと長生きします。それはそれで嬉しいけど、プハハハ」 ドゥバイヨルというチョコレートの名を一生忘れることはない……かも知れない。 |
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