「 ごちになります 〜マス釣り大会〜 」 2月23日(水)
前の会社の同僚、岡田こと“オカピー”とマス釣りで勝負することになった。そこへ「何だ、なんだ、フライフィッシングなら負けないぞ」と娘の麗音が仕事を休んでまで加わってきて、めでたく3年振りのトーナメント開催となった。
管理釣り場は久しぶりである。朝霞市の、その名もズバリ「朝霞ガーデン」である。思えば今から8年ほど前の冬、寒風吹きすさぶ中で鼻水を垂らしながら始まったこのトーナメントであるのだが、発足当初のメンバーであった妻も大会中に雪の中で居眠りをするという失態を犯して除名され、今ではメンバーも前述の3名のみとなってしまったのだ。さみしい(恥ずかしい)話だ。
オカピーの奥さんのタマチャンを勧誘したいのだが、忙しい音楽家なのと、アウトドア嫌いらしいのでなかなか実現しない。サブの会員にアサキーという女性もいるがフライフィッシングは下手クソだ。
さて、勝負は真剣でなければならない。「ごちになります」方式である。管理釣り場だから、当然金を取られる。1人3時間¥2100だ、高いか安いかの問題は別にして、釣った魚の数が一番少ない人が全員分の料金を支払うこととする。フライフィッシングであればフライの種類、方法を問わない。ただし毛バリの代わりにイクラなどを付けて釣った場合は死刑だ。(もう時効だから言うが、かつてカステラを丸く固めたやつで馬鹿釣れしたことがある)
3時間、6時間、1日という券があり、なるべく長く釣っていたい気持ちはやまやまなのだが、なぜ一番短い3時間券にしたかというと、午後からは釣ったマスをキャンプ場で焼いて食おう、という腹づもりがあったからだ。飼い猫のウーロンも仲間(準会員?)に入れてやりたい。
開始早々、わたしがドライフライ(水面に浮く毛バリ)で1匹釣り上げた。30Cmの虹マスだ。夏ならいざしらず、この時期にドライで釣ったことに意義がある。回りの客がほとんどニンフ(水中に沈む毛バリ)でやっている中、勝った気がした。ほどなくオカピーも1匹、同じくドライ。
ところがである。娘の麗音になかなか最初の1匹が来ないのである。わたしとオカピーが2匹目を釣り上げてもまだ来ない。あせってきているのが隣でよく分かるのである。気をつかうのだ。遊んでもらっている父親としては気が気ではないのである。おまけに、せっかくきた魚をばらしたりしている。
やっと1匹目を娘が釣り上げた時、36歳と51歳の男2人、思わず拍手しましたもんね。まるで女王様扱いである。
釣れないひとときがしばらくあって、わたしと娘はニンフに変えた。遺伝子というのはおかしな所で表面に出てくるもので、娘はほぼわたしと同じ飽き具合でドライとニンフを付け変えていたようだ。
朝霞ガーデンの堀にはマスの他にぺへレイという南米産の外来魚も入れてあり、こいつを釣って最後の一発逆転を狙っているところが、またまた親子双生児と言われる所以である。
風が強く吹いて、それを潮に制限時間いっぱいとなった。
パンパカパーン! いよいよ結果発表である。わたし3匹、娘3匹、オカピーな・なんと5匹である。最初から最後までドライで通したオカピーにまんまとやられてしまった。しかも娘が釣った3匹目は今日のビッグワンだったので、わたしが最下位ということになった。それにしてもオカピーに負けるなんて、春一番が吹いたこの日、こそこそと移動して風の弱い場所を探し、じっくりと腰を据えて成果をあげたこの男に、わたしは人生を見たネ。
人生は動かぬことだ、などと深淵なことを頭で考えつつも「フン、どうせみんな俺の作った竿と、俺の巻いたフライで釣ったんだから、ぜ〜んぶ俺が釣ったようなもんじゃないか」と大人気ないことを腹で思う。人生は矛盾だ。
帰路、途中でウーロン(飼猫)をひろい、キャンプ場へ。11匹のマスをさばき、火をおこしてビッグスリーをホイール焼きにして食す。あまり旨くない。だれか美味しい虹マスの食べ方を伝授してくれないだろうか。ウーロンは匂いをかいだだけで、木登りを始めた。娘はそれを追いかける。
「オカピー! お前責任持って食えよな」
この男は焚き火を始めると夢中である。どこまでもマイペースである。先祖が花火職人だったというDNAのせいかも知れない。
わたしは、残りのマスをスモークにしようか、輪切りにして甘露煮にしようかか、カラスにやっちゃおうか、と悩む。
薄暗くなるまで火を燃やし、メラメラとした赤い光に頬を染め、全身煙臭くなるまでキャンプ場にいすわった。
あっという間に、楽しい 「想いでの日々」のような「今日」が終わった。
・