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何かくれるの?

楽しいこと有った?

よく分からない

シェー?

出て行かないで

無理無理
 
2020年07月22日(水)「マダムJの密かな楽しみ」

 妻の“マダムJ”(笑)がメルカリで「デッサン人形」なるものを買った。3ヶ月ほど前だ。最近の妙にリアルな樹脂製の気持ちの悪い物ではなく、木製でアメリカ製のいいやつだと言い訳のようにのたまわった。別に何を買おうと文句など言ったことは無いが、まあ自分でも「絶対なる必要物」とは思っていない様子だった。彼女は、まあ、一応画家なのでいずれ部屋に持って行き、人体デッサンの参考にするのだろうと思っていたのだが、何故かずっとキッチンに置きっぱなしであった。
 ある朝、ちょっと悪戯心が起きてポーズを勝手に変えて、その両手に「鍋つかみ」を持たせてみた。佐渡おけさ風のポーズである。この鍋つかみは彼女のオリジナルで、小さい割りに実用的で自慢の一品である。場所を取らず、指先の保護という目的は必要十分に果たしている逸品である。

 お湯を沸かし、コーヒーを入れて、食器をペーパータオルで拭いていると、マダムJが「おはようございます」と起きてきた。そしてデッサン人形を見ていきなり「ブブッ」と笑った。
 そして、その日以来である。お互いにデッサン人形のポーズを変えて、相手を笑わそうとする日々が続いている。
「今日のはいいねえ」
「ずるいよ、こういうの前にも有ったよ」
 ってな具合である。
 
 明らかに妻も、そしてわたしもこのゲームを楽しんでいる気がするのである。楽しみにしている、と言い換えてもいい。そういう年齢になったのだなあ、と思う。わたしの方が5歳上だが、彼女より長生きして、絶対に彼女の最後はわたしが看取ってやりたいといつも思う。
小林 倫博