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2016年06月20日(月)「 唐辛子食い始め 」 井伏鱒二さんの生前のエピソードで、大好きなものがあるのでご紹介しよう。随分前に何かの本で知ったことなので、多少ディテールに不確かな部分もあるが、そこんとこはまあお許し願いたい。 ある日、井伏さんは知りあいからお土産にと100個ほどのリンゴをもらったのだそうだ。たいそう喜んでおられたそうだが食べるでもなく嗅ぐでもなく、ただただじっとリンゴを見つめてほくそえんでおられたらしい。 深夜になってムックと起き出し、やおら庭の木の枝に100個のリンゴを1個ずつ丁寧にていねいに結び付けたというのである。実に怪しい爺さんなのである。暗闇の中で脚立に乗っての作業はさぞかし大変であっただろうと想像できるが、他人を驚かせたい、おどろく顔を見てみたいという他愛ない快楽のためのその努力に、わたしは惜しみない拍手を送るのである。人間いくつになっても、かくありたいものだと思うのである。 種まきした分の唐辛子がボウボウとモヤシのように伸びてしまった。間引かないとヒョロヒョロの苗になってよろしくないのだ。苗で買って育てている分がもうどんどん実をつけているのでそっちばかりが嬉しくて、種まき組をちょっとぞんざいに扱ってしまった。 井伏さんのエピソードほどではないが、わたしもちょっとしたサプライズを計画している。なるべく人目に付かないところで唐辛子類を完熟させて、ある日道路側に面した“犬走り”にそれらの鉢を一斉に並べるのだ。 20Cm以上ある赤や黄色のバナナピーマン、魔物の鼻のような毒々しい鉄さび色のジョロキア、グネグネと徒長した“しゃべり過ぎ鳥”のクチバシのごとき魔女の爪、闇の世界で密かに取引される女の赤い涙、それはハバネロだ。蝋質肌のハラペーニョには呪いの銃弾を演じてもらおう。沖縄島唐辛子とタバスコには羽を付けて通りがかる人間どもの頭のまわりをブンブンと飛び回るように調教するのだ。そしてわたしは長髪のズラを付け、ズタ袋で作った服を着ていつも鎌を持って歩き回っているのである。 おそらく人々は恐怖におののき、指差して言うだろう。 「と、と、と、唐辛子の館だ〜!」 “ピリ辛ピーマン”と“魔女の爪”と“メヒカーナ”が採れたので酒のツマミにする。生で齧ってみたがピリ辛ピーマンはピリともしなかったので、メヒカーナを混ぜて豚肉と炒めてみた。いい、いい。いいが、なら何のためのピリ辛ピーマン? 辛さを借りてどうする、訳が分らない。 魔女の爪は牛肉と炒めたが、こっちも刺激不足。キックの無い食い物はつまらない。魔女の爪どころかお嬢様のすかしっ屁みたいだ。意味が分らないけど。 ま、とにかく「2016 唐辛子食い始め」はスタートしたわけである。肛門まわりには用心である。痔とカプサイシンリングが慢性になったら人前には出られない。あ、見せるもんじゃないんだったな。 |
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