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子供が欲しくない夫婦は行くなよ!

誰だチミは?

パンフ表

パンフ裏

夜来てみたい

3本がくっついた

新妻がくぐるわけ

ここもくぐるわけ

登るわけよ

登るだけで200円

子授観音だからね

釜茹での刑

ここだと思ったが
2016年07月24日(日)「 笠森観音 」 

 一枚の写真がある。大きな水盤に植えられた蓮の葉の下で、一人の女性がおどけたポーズをとっているものだ。彼女が誰なのか、どういう事情でそんな所にしゃがんでいるのかまったく思い出せない。
 写真の撮影日を見ると20030803とある。丁度13年前の今頃だ。
 あ! わたしの脳に微量の電流が流れた。8月3日といえば母の誕生日である。そうだそうだ、たしか80歳のお祝いに食事会をした時のものだ。

 ここまでくると色々なものが繋がりだした。62歳の脳味噌もまんざら捨てたものでもないのだ。たしか飯を食ったのは「ユートピア笠森」というところだった。今では潰れてしまって無いんだと数年前他人に聞いたことがある。
 あ! もっと下らないことを思い出した。20畳はあろうかとおぼしき和室で豪華な食事をしたのだが、鯛の活き造りの頭をもったいないからと母がビニール袋に入れて持って帰ると言い出したのだ。言い出したら聞かない人なので、もう誰も止めなかったが、食事がほぼ終わって仲居さんが片付けに来た際、鯛の頭が無いことに気づいた。で、みんなそれとなく他所をみたり立ったり座ったりしたのだった。わたしは「およげ!たいやきくん」を口笛で吹いた。
 話が逸れてしまった、写真の女が一体全体誰か……という話だった。
 さんざん考えたがやはり思い出せない。もしかすると身内ではないのかも知れない。わたしは時々隠し撮りなどする(犯罪だけど)ので、その類の1枚かも知れなかった。当時はまだ埼玉の蕨に住んでいたので、千葉のことには明るくなく、地理的なこともまったく分らずただただ義兄の運転する車の後を必死で付いて行くのがやっとだったのだ。運転し終わって気が緩み、調子に乗ってあかの他人様をパチリなんて十分に考えられるわたし的シチュエーションである。


 で、唐突だが、本日笠森観音に行ってみることにした。恐ろしいほどに能天気だが、行きさえすれば写真の彼女に会える気がしたのである。
 スマホのヤフーカーナビは結構役立つことが分った。
 1時間ほどで到着。13年前だからおそらく彼女も56〜57歳といったところだろうか。バイクを駐車場に置き、笠森寺の参道に向かうと、笠森山荘という名のレストランの前に見覚えのある“蓮の植えられた大きな水盤”があった。女主人に件の写真を見せ、その女性を知らないか? と訪ねたが「知らない」という。場所も「ここではないようだ」とも言った。うーん。
 確かに背景も水盤の絵柄も違っている。わたしの感動は束の間で散り去った。水盤の配置を変えたとか、レストランが後から出来たとか、昔は上の境内にあった等、可能性を尋ねてみたが無駄なことだった。13年の月日を舐めてはならないのだった。

 帰宅したあと、酒を飲みながらその日1日の顛末を妻に話す。妻は笑いながら写真を覗きこんだ。
「いやだパパ、それ私だよ」
「いや、違うよ」
「私じゃん!」
「ぜんぜん違うジャン!」
 妻の顔に不安がよぎるのが見てとれた。わたしに認知症が始まったとでも思ったのだろう。わたしはすぐに押えた。
「ボケたとかそういうんじゃないぞ」
「ということは、ふ〜ん。それともあれ? 今の私に何か不満があって、昔の私じゃないっていうか、昔は可愛いかったのにーとか、ババアになったからもう要らないっていうか、他に女ができたとか、そういうことをなんとなく言いたいがために、ドッキリみたくジワーッと仕掛けてみてんのかオヌシ! あん?」
 妻の剣幕はどんどん激しくなって行くのだった。

 少しは当たっているが……そういうことだけじゃないんだなあ……。