2012年02月17日(金)「 一期(イチゴ)一会 」

 3年連続で展覧会(近代日本美術展)に来てくれているので、その“お礼”も兼ねてシナちゃんとアヤちゃんを「イチゴ狩り」に招待した。時期的に少し早いが、1ヶ月前に下見に行った時もお客が結構入っているようだったので大丈夫と踏んだ訳だ。彼女たちは職場の縁(?)で親しくなった友人。これまでも何回か登場してもらっている。年齢は二人ともわたしの半分以下だ。老化防止のために無理やり付きあってもらっているようなものである。

 イチゴ狩りなんかおそらく30分で終わってしまうから、そのあとのメニューも一応考えておかなければならない。かねてから「是非に!」と言っているのに、わたしが僻地に住んでいるものだからなかなか実現できないでいる「飲み」もそのひとつ。さらに自慢ばかりで、九十九里の海の幸もまだ一度もご馳走できていない。犬自慢もまだだ。ということで、長年の“不履行”をかき集めて「一挙に実現!」というのが今回の接待の主な目的である。

 しかし、前夜半から雪が降り始めて02:30頃には4cmほど積もってしまった。わたしは半ば諦めて「中止にしますか」とメールしたが音沙汰なし。朝06:00に起きて犬の散歩に出かけたが雪は降り続け、犬は喜び庭駆け回る。そこに返信がきて「もう電車に乗っちゃいましたヨン。都内はぜんぜん降ってませんヨン!ウソでしょう?」とのこと。昨夜からの心配は何だったんだ!と自嘲し、若い娘たちと付き合うには“テキトー”な方がいいのだなあ、と究極の結論に達した。ジジイは老婆心の塊。

 ところが、二人が予定どおり来ることになり、すべての接待計画を決行することにした途端、なぜか空はにわかに晴れてきた。数時間前「天は我を見放したり!」と武士言葉で叫んだ自分を恥じる。気温もどんどん上がり風も止み、積もった雪の照り返しで初夏のような日差しに変わっていった。普段の行いがいいと、こういう時に助かるわけだ。と、変わり身の早さは天下一品。
「天も我に従いたり!ざまあみたらしダンゴ!」と再び武士に戻る。

 イチゴ狩りの入場時間は09:00からで先着30名限定。土日だと早い時間から並んでも、入れないお客がたくさんいるらしい。二人が土気駅にそろったのが09:15。ちょっとヤバイかもと思ったので、家族への紹介もそこそこに、イチゴ園に向かって車をスッ飛ばす。路面の雪はすっかり解けてしまった。
「どこが無人駅なんですか〜!?」
 土気駅は無人駅であると、シナちゃんに言ってあったのだ。全員大笑いし、雰囲気は整った。

 イチゴ園に到着すると園主がのんびりと雪かきをしていた。こんな日に?といった目つきだ。
「けっこう積もりましたねえ。だから今日は開けないつもりなんですけど…う〜ん、晴れたし。まあ、いいですよ、どうぞ。こういう日は本当は(株を)休ませた方がいいんだけどせっかく来てくれたんだしねえ」
これを“滑り込みセーフ”と言わずして何と言おうや、である。アヤちゃんなんか町田(神奈川県)から土気(千葉県)まで3時間かけて“来て頂いて”いるのである。思わず万歳をした。

 各自、スーパーで売っているイチゴパックの2個分ぐらいを食べ、コストパフォーマンス向上に努める。過去に3時間ぐらいイチゴのゲップが止まらなかった経験があるが、そこにイチゴがある限り手が動いてしまう人間の性(サガ)。入り口で手渡されるプラ容器には練乳(コンデンスミルク)が入れられていて、もいだイチゴにそれを付けて食べる。後学のために書いておきますネ。練乳のボトルを持ち込むべし!です。配られた分はすぐに無くなります。どこでも持ち込みOKのようで、その場で買うこともできるようです。そうすれば3パック分は食えるかも知れない。
 ついでだからもうひとつ講釈を。今回初めて知ったのだが、イチゴ狩りの料金は時価であり変動するということだ。早い時期だと一人30分でだいたい¥1700程度。そしてなんと今回は、昨日から2段階目に入ったとのことで¥1400に下がっていたのだ。ささいな幸運に女どもはキャーキャー叫ぶ。暖かくなれば粒と数が揃って、最終的には¥700ぐらいまで下がるそうなので参考にしてください。多人数で行くのならちょっと時期を後ろにずらした方が懸命だろう。なんてね。


 コンダクターになった気分で、接待スケジュールを仕切るのは結構楽しいものだ。次は何、次はどこ、と一言発すると全員「はあ〜い!」と号令に従って動き出す。旗も作っておけばよかった。
 イチゴゲップが止まるまで我が家でコーヒータイム。庭を案内しバラや野菜作りの話でひとしきり“知ったかぶり”をさせてもらった。
 昼飯は海沿いの白子町へ移動。いつも利用している店で海鮮料理に舌堤を打った。船主さんがやってる店なので驚くほどコストパフォーマンスが高い。いつも満席。
 
 せっかくだから、と白子海岸を少し歩く。九十九里のオゾンを吸って腹をこなそうと思ったのだが、それどころか今度は“イチゴ風味の残る海鮮ゲップ”攻撃を受けたりした。消化器系飽和状態。でも今日はそれでいいのだ。
 海は突然みんなを幼くした。引き潮の濡れた砂浜に足跡をつけて遊ぶ。踊るように弾む心で足跡の輪を作り続けた。わたしは「あ、このシーンは一生脳裏に残るかも知れないなあ」と根拠もなく思った。海は男を詩人にもする。
 帰路、スーパーマーケットで各自嗜好の肴を仕入れ、再び我が家に戻って仕上げの「飲み」である。
 妻が「飲み過ぎないでよ、嫌われるよ〜」と目で信号を送るので閉口したが、ま、おかげさまで失態を演じることもなく、コンダクター役を無事に勤めあげた……ような気がする。

 ソラ(犬)が一丁前に自分の椅子を確保し、終始テーブルを離れないで接待演技をするので、ドリンクタイムの主役はまさしく彼になった。彼の頭をなでながら、わたしはどんどん馬鹿になって行った。
「ソラ(犬)は俺の一人息子なんだ。シナちゃん、こいつの嫁さんになってくれんか?」
 彼女はニコリと笑い「いいよ」と言った。
 女性陣がメルアド交換をしながら「いっしょに海外旅行に行きましょうよ〜」と盛り上がっていた。
 わたしは酔いつぶれた訳でも眠り込んだ訳でもなかったが、そこから先はあまりよく覚えていない。




               




mk
「普通は話もしてもらえないよ〜!」と娘は58歳の父を怪しむ。
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左アヤちゃん、右シナちゃん

完熟してなくても甘かった

若者はすぐにうちとける

特に腹ペコじゃないけれど

イチゴ風味の海鮮ゲップ

最近の娘は大きいねえ

こんな笑顔は初めて見ました

アヤちゃんの可愛い一面

ソラは人気者だ

ピースばっかりしてます
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