07年10月16日(火)「 家探し 」
8月の初め頃から“椎間板ヘルニア”が再発してしまって、気がつけばもう10月である。53番目のわたしの夏は存在すらしなかった。水中撮影用のハウジング(楽しみにしていたのだが)がうっすらとほこりをかぶっているテイタラクである。
「まずいなあ、まずいよなあ、このままじゃ」
あせってどうなるものでもないし、そもそも何をあせっているのか自分でもよくは分かっていないのだが「行動しなくなること」「休日に家でゴロゴロする男になってしまうこと」「バイクで一人旅に出なくなること」などは耐えられない。“鮫(エラ蓋が無いので動いていないと死んでしまうのだ)”と呼ばれた、そしてそう自負してもいるプライドが許さない。
「ダメモトで思い切って出ッパリを手術で取っちゃったら?」
妻は軽い気持ちで言ったようだが、わたしは結構真剣にその策を考えている今日この頃である。
スーパーカブでチョコチョコっと写真を撮りに出かけたりはしたが、2時間ももたない。“往きはよいよい帰りが恐い”のである。この3ヶ月はマルデダメオ君であった。マスもワタカもオイカワもハクレンも釣っていないし、峠も越えていない。ツーリングと呼べる距離も走っていないのである。まったく情けない。しかしながら実行動的に収穫といえるものは何も無いのだが、時間がたっぷりあって色々と雑念に精を出したせいもあってか、ちょっと心境に変化のようなものが生まれた。わたしの“自分号”にとって良いのか悪いのかは分からないが、それは「家」に対する考え方の変化である。「変わり身の早さ」がここでも出た……とも自己分析している。
父母が鹿児島で健在だった頃は、“いくつになったら”というような具体的な予定はなかったものの、ゆくゆくは故郷鹿児島に帰るつもりではいたのである。歳をとってからはやっぱり暖かい土地がいい。言いかえればそういうつもりがあったので、なかなか関東で家を購入する気になれず現在にいたってしまったのだ。“住居”に関してわたし自身は今のままで一向にかまわないのだが、妻や娘や飼い猫どものことを思うにつけ「もっと広くて大きな家を買って(残して)あげなければいけないのじゃないか?」と考えるようになってしまった。一戸建にしてもマンションにしても、生涯で支払う総額は賃貸の方が安いという統計があることも知っているし、マンションでのアーバンライフがいかに利便性に優れているかということも十分経験済みなのだが、人間の意志はコロコロ変わる。先日まで「ジプシー万歳! トランクひとつの人生!」とか言ってたじゃろうがという嘲笑も聞こえてくるが、そこはほら……わたしは頭も鮫(脳味噌が少ない)だからね。「心だけはジプシーってこと! ジブシーだってパオ程度の家を持つことだってあるだろ!」といい訳をする。
さてそうなるとロケーション的にムクムクと際限なく欲がわいてくる。この際だから○○も○○も……というのが増えるのだ。腰痛は一生治らないものとあきらめて、発想の転換を図るのだ。山川が近くにある所がいいなあ。澄んだ青い湖でさんざん釣りを楽しんだあと、流れ出しから若い美女とワインなどを飲みながらカヌーで下り、3時間ぐらいで海にたどりつくような……という訳だ。
「海にたどりついてどうするの?」
「どうも! って言うだけだよ」
「なにそれ? オシリぐらい触らせてもらいなさいよ! それにそんな所はカナダにもアラスカにも無いわねえ」と妻が言った。
千葉県へ行くことにした。「土気(とけ)」という場所である。現在、母と姉夫婦が住んでいる。海(九十九里浜)まで20分、かつて野田知祐さんがいた亀山湖も、遠藤ケイさんがいる養老渓谷もそう遠くない。美女は……この際あきらめよう。母の一言で決めた。
「私ももう長くはないような気がする。死ぬ前の2〜3年でいいからあんたのすぐ近くで暮らしたいもんじゃなあ」
父の生命維持装置を独断で外したのはわたしだ。彼女から父を奪ったという思いが強い。さらに悲しみのどん底にいた母を、無理矢理ひとりで関東に移住させて辛い思いをさせてしまった。そんな負い目のようなものがあるからだろうか、わたしはある歳を境に彼女には逆らわないことに決めてしまった。どんな無理難題でもできる限り聞いてやろうと考えるようになった。
土気の東急リバブルから「いい中古物件が出ましたよ〜」と連絡が入る度に足を運び、妻・娘・母で大騒ぎだ。姉までもが先輩風を吹かせて口をはさむ。ワイワイガヤガヤとまるでピクニックである。不動産屋の担当者が若いイケメンだった時など、女4人でからかってもいた程だ。
「何でもいいからとっとと決めようや」とわたしは思うが「土気なんて僻地には住みたくない」とツッパッていた娘までが、間取りがどうのこうのと生意気をほざくのだ。
「海と川と山と魚が条件のパパとは違うのよ!」
その通りなので返す言葉が無い。家の間取り写真でも撮ってひたすら待つしか無〜いじゃあ〜りませんか!
上の写真の家はうるさい女どもも気に入ってもうほとんど決まりそうだったのだが、ドタン場で話が流れてしまった秀逸の一軒。タイミング的にタッチの差(2時間ぐらいだったらしい)で、うちが2番目の申し込み者になってしまった。不動産屋が「先客はローンが組めなさそうだ」と妙な期待をさせるものだから、こっちは俄然その気になってしまって引っ越しの段取りまで始めていたのだが、結局ご破算になってしまって現在家族全員フヌケ状態である。
と、まあそんな今日この頃ではあるが、遅かれ早かれ土気に越すのは間違いない。わたしの歳ではもうローンなどは組めないだろうから、あとは金策だけだ。さてさて……。
mk