「 IDオークション 」
ヤフーの中にホームページを持つ身として、ヤフーに対して苦言を吐くのは誠に忍びないけれど、しかしながら、いやいや実に今回はまいった。
事の発端はオークションである。家にある不要物や知人の水彩画、自分の版画などを雑多に出品して楽しませてもらっていた。売上もそれなりにあり、いわゆる(評価)も確か243あったはずである。その昔音楽をやっていたせいで古い音楽機材やパソコンの残骸がそこそこにあったし、カメラのコレクションもあった。絵の方も知人たちがあとからあとから新作を描いて持ってくる。それで食えるというには程遠いけれど、まあ順調に実績を重ねつつあったのだった。妻などは半ば真剣にインターネットショップを考えているようでもあった。
2ヶ月ほど前、2世代前ぐらいのノートパソコンを出品した。次の持ち主が困らないようにと思い、パソコン内のシステムバックアップを取りCDに焼いてオマケで付けますよ、と説明文を付けたのだ。
レアな人気機種でもあり、バックアップCD付きとあってアクセス数400、ウォッチリストに加えた数60となり、入札価格も4年前の機種とは思えないほどの高値がその時点で付いていたのだった。
ところがそのパソコンの落札予定日の1日前に、突然オークションの出品物が絵も含めてすべて削除されたのだ。まったくもってその時点では訳がわからず、ヤフーの場合は電話での問い合わせ先も無い。今思えばその時点で保存できるものを全て保存すればよかったのだが、通信上のトラブルでも有ったのだろうかと、のんびり構えていたのである。
そうこうしている内に3日程経ち、突然ヤフーIDそのものが強制削除されてしまった。ホームページもヤフーメールもアドレスも、それまでの実績も一瞬のうちにパーである。そしてヤフーからは著作権侵害の知らせが来た。
つまり、パソコンのOSやソフト、アプリケーションの類は、バックアップ用と言えどもコピーしてパソコンといっしょに売買してはいけないのだ。言われてみれば当り前のことかも知れないが、現時点でパソコンに入っているもののバックアップもダメだとはついぞ思わなかった。出品者としてはサービス・親切・良心のつもりだったのである。
他の出品者を見てみると、堂々とOS(windowsXPや2000等)やOfficeのコピーCDが売られている。なぜ彼らがID停止にならないで、親切心にあふれたわたしがチクられなきゃいけないんだ? とかなり憤りも感じたが、憤り自体をぶつける場所さえない、ヤフー帝国の一方的な処置に屈するしか無かったのだった。
しかしまあ考えようによっては落札前であったおかげで、犯罪者にならずにすんでよかったのかも知れないなあ……と今は思うようにしている。
さて、問題はその後である。わたしの名前及び住所ではもう、もう、もう、どんな事をしても元通りの状況には戻れないのだった。クレジットカードを変えてもダメ、家族名義でもダメ、どこかにわたしの名前と住所が絡むとOkが出ないのだ。元々自分の撒いた種なので文句も言えず、ただ茫然とヤフー及びインターネット上をさまよった。ヤフーオークションで「買う」ことはすぐにできるのだが「売る」ことの資格が得られない。つまり住所確認のセキュリティー暗号が出してもらえないのだった。
それでもホームページは何とか復活させた。著作権保護団体に手繰られて捕まってもかまわないつもりで新しいIDをわざとらしく「mitijunreine2」にした。裏情報が欲しくて「2ちゃんねる」を深いところまで見たが結局決定的な打開策は見つからず今日に至っている。
未練ったらしく、つらつらと別のオークションサイトをサーフィンしていると、とんでもないものを発見した。「ヤフーオークションでIDを強制削除された方々へ ・ 売買の準備を整えたオークション用IDを売ります!」
なんてこった! こんな出品物が堂々と許されているのに、たった1度ミスを犯したわたしのような一市民を苦しめやがって! わたしは腹のそこから笑いたくなってしまった。竹中直人じゃないがわたしは怒りながら笑える人なのだった。そして腹の皮がよじれるまで笑った。
相変わらずOS及びソフト類のコピー商品は売られているし、偽者のヴィトンもグッチも売られている。「取説」を売っている風にはなっているがスタンガンも警棒も(この2品は実は合法だ)刃渡り50Cmのナイフも売っている。
「どういうこと? どういうこと?」わたしは久しぶりの自虐ギャグを吐いた。
脳梗塞で倒れたらすぐに自殺できるように(半分冗談)と「青酸カリ」を探してみると、別の個人サイトでちゃんと売っている。信用できそうにもない怪しいサイトだが「トリカブト」もあるじゃないか、まったくふざけている。買えないものが無いぐらいである。
さらにディープに手繰ってゆくとリアルな「虐殺サイト」などもあり、イラクの日本人人質の殺害ケースも未だに見れるのだった。わたしは自分を恥じ、心を暗くして二度と見れないよう封印した。
インターネットやオークションサイトがらみの犯罪及び事件がここのところ急激に増えている。普及すればするほど、便利になればなるほどアンダーグラウンドも広がり、それらが今後さらに悪の温床になることはおそらく間違いない。しかしそれは宿命なのだ。結局最後は個人のコンプライアンスの問題になるのだが、そんなことも悠長に言っていられない。規制、規制となるのは目に見えている。しかしおおざっぱな線引き・規制ではいつか必ず歪みを生ずるのだ。それは歴史が物語っている。「弱いものは泣きをみろ、我慢しろ」ということになりかねない。
どれだけコストがかかっても、1件1件細かく審査するような細やかさこそ儲かっている者の良心というものだと思うのだが……。
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