なんか怪しいぞ |
お巡りさんじゃ! |
電話するイケメン容疑者 |
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林の中の一騒動 |
2014年12月26日(金)「 人を見る目 」
犬も年齢を重ねるとだいぶ賢くなるのだ。散歩で毎回同じコースだったりすると、途中の十字路とかで突然駄々をこねる。首輪が抜けそうになりながら必死の形相で座り込むのだ。口で叱ってもちょっとやそっとじゃ動かない。無理に引っ張ると仕止めたアザラシを引きずるエスキモー状態になる。
安全靴で蹴りを入れて強引にこっちの都合を押し通してもいいのだが、普段滅多に意思表示などしない彼らがそこまでするのにはよっぽどの理由があるんだろうなあ、などとわたしは甘々プラス思考(?)なのである。声掛けしていればいつか話せるようになるんじゃないかと「今日はどちらにまいりましょう?」などとお伺いをたててみるが、残念ながらそこまでは賢くないんだなあ、これが。
腹が減るのが嫌だからあまり遠くへ行きたくないだけ、という説もある。
あ、犬の話ではないのだった!
という訳でだ、まあ犬も自分も飽きないように毎回行先を変えているのだが、今日は「アンテナ山」に行ってきた。そこでの話。
片道で30分ほどかかる小高い山のてっぺんに、NTTdocomoとAUの携帯電話用のアンテナが100mほどの距離をおいて2本立っている。辺りには人家も畑も何もない。幅3mほどの砂利道が鬱蒼とした林の中を突き抜けているだけで、街灯も1本もない。産廃の不法投棄が何カ所かあり、たまに捨てに来た輩と出くわす事もある。
自然が色濃く残っているのは好ましいのだが、治安的な意味で決していい雰囲気ではない。つまり妻や娘はまったく行かない場所なのだ。薄暗くなると古城跡ということもあって色々な動物や半透明の人物が道を横断する。
あ、亡霊の話ではないのだった!
午前7時、2匹の犬を連れて坂道を上っていると後ろからクラクションを鳴らす不届きな車がいる。引きずり降ろして頭突きをかましてやろうかと身構えたが、よく見たらパトカーだった。2人の若いお巡りさんが、申し訳無さそうな顔で拝む格好をしている。頼むから早く道を空けてくれという訳だ。わたしは強面を作り、睨み付け、犬を引き寄せて舌打ちしてから、すれ違い様にニカーッと笑って敬礼をした。公務員をからかうのは実に楽しい。
ずいぶん急いている感じなのに、その割にはパトカーが忍び足のようなスピードなのが不思議だった。獲物を狙って近づく、ホフク前進のライオンと言えばわかっていただけるだろうか。
なかなか本題の「人を見る目」に入れない。“老人性思考散漫症候群”だろう。
200mほど山道を進むと、docomoアンテナのカーブでパトカーが止まっていて、お巡りさん2人が今まさにひとりの男を尋問・捕縛している瞬間だった。わたしも犬たちも緊張のあまり、大木の陰に忍者のように身を隠して様子をうかがった。
男はすぐに観念してしまったようで、暴れたり声を荒立てたりする様子もなかった。アンテナ塔は高さ1.8mほどの金網フェンスできっちり囲まれていて、取り調べはその中で行われている。逃げられる状況ではないのである。
わたしと犬たちは急遽「スカポン探偵団」を結成した。そして、恐る恐るパトカーの脇をすり抜けながらも、入口の南京錠が引きちぎられているのを見逃さなかったし、その敷地内にある倉庫のドアもまた見事に破壊されているのを確認した。
さらには、男のものとおぼしき成田ナンバーの車の荷台に「ディーゼルエンジン式発電機」「チェーンソー」「巨大ハンマー」「巨大バール」他、様々な工具類が所狭しと積み込まれているのを見逃さなかった。プロの道具である。
お巡りさんがまた拝む格好をして「どうか早く立ち去って頂きたい」と懇願するので、わたしと犬たちはチャッ・チャッ・チャーン(太陽に吠えろの曲)を歌いながら小走りに通り抜けたのだった。後でよく考えたら、チャッ・チャッ・チャーンは警察のテーマ曲だった。探偵団が歌うのはおかしいのだった…。
もう本題などどうでもよくなってしまったが、ま、ともかく続ける。
もう1本のAUアンテナの下で犬に水とオヤツをやり帰路につこうとすると、犬たちが「犯人の顔が見たい」と言い出した。好奇心を持つことはとてもいいことなので引き返す。わたしはデジカメをケースから出してポケットの中に忍ばせた。いつでも撮れるようにだ。
そして「この先は行き止まりでしたワ〜、へヘッ!」などと間寛平風に言いながら、気の弱そうな方のお巡りさんに何気なく取り付き、話しかけ、道が狭いのに困ったもんだと苦言などを交えながら、ところで何なの? と尋問すると誘導されたのかハズミなのか全容をアッサリ語りはじめた。
まあ見ただけでも分かるのだが、倉庫荒らしだという。しかもこの男、お馴染みさん、もとい常習犯らしい。
一見したところ普通の若者である。身長175p、体重65s、年の頃27〜28といったところだろうか。アウトドア系のブランドものの服を着ている。モンベルを着た泥棒なんて超生意気である。だけど機能的なのだろうかなあ? モンベルはいい。
フェンスの中なので監視はされているが自由にさせてもらっているようだった。「君には黙秘権がある。弁護士に連絡を取りたいなら…」などという例の会話があったのだろう、犯人は、もとい、容疑者はこちらに背を向けてスマホで誰かに連絡を取っているのだった。
「えー、スミマセン、何日泊められるか分かりませんけど、とりあえずさっき言った物をお願いできますか?」
慣れているのか手際がいい。頭も良さそうである。言葉使いも悪くない。
もう1台、黒い覆面パトカーがやってきてスーツ姿の男が降りてきた。おそらく刑事だろう。案の定、角刈りだ。
とその時、容疑者がこっちを振り向いたのだ。
「わ、イケメン! カッコいいやん! 妻夫木聡そのものやん!!」わたしは思わず声に出してしまった。
しかしながらそれは「大した取り柄の無い俺だが、まあ人を見る目だけは確かだと思う」という長年抱いてきた自信が、脆くも崩壊した瞬間でもあったのである。
わたしの価値観からすると、犯罪者(容疑者)がこういう美しい顔をしていては困るのである。悪人は悪人らしく、傷痕、脂質、アバタ、猪首、吊り目、豚鼻、イモ頭、額の瘤、等々分かりやすいパーツを持っていなければならない。
なのにだ、目の前の悪人はとびっきり美しい善人の顔じゃないか!
35年前、もしわたしがこの容疑者の肉体と顔を持っていたら、おそらく大スターになっていて、今ごろは確実に紫授褒章をもらっていたはずである。
娘がこの容疑者を恋人ですと家に連れてきたら、わたしはすぐに“娘を宜しくお願いいたします、早く子供を作りなさい”などと言ってしまうだろう。
妻がもしこの容疑者を恋人が出来ましたと家に連れてきたら、わたしは泣きながら“わかりましたよ〜ワハハハ、どうぞどうぞ ”と笑ってしまうだろう。
「顔は心の鏡」というが、まあアナクロな諺(ことわざ)だが、現代ではもうそれは嘘っぱちなのだろうか。
今は「腹黒ハンサムボーイ」が主流なのであろうか。それとも…わたしの人を見る目がずっ〜と前から狂っていたということなのだろうか。
皆様にも、このわたくしめの苦悩を分かっていただきたく、ぜひとも容疑者の顔写真をここに公開したいのだが、それはそれでまた別の犯罪であろう。そうなるとわたし自身の顔がテレビニュースに出ることになって、視聴者の皆様はそれを見て「やっぱりな、これこれ。悪いやつの顔はこうでなくっちゃ!」などと納得し合ったりするのだろうか?
年々「岩窟王」のような顔になりつつありますな。あら? 岩窟王がわからない?