2013年11月28日(木)「 非科捜研の男 」

 一週間前の「科捜研の男」の続きだ。が、今週は正直に「非科捜研の男」というタイトルにしておくことにした。コケオドシタイトルはやっぱりいけませんのだ。
 それにこうしてブログなんぞに書いているわけだから責任というものもあるのだし、本当はもっとキッチリとタイトル通りの役(?)を演じきらねばいけないとも思ってはいるのだ。「何の役だよ?」といわれるとまったく実際本当に困ってしまうのだがカプサイシンに犯されたスカポン頭なのだから許していただきたい。
 というわけで今日は、マジで薬品やら検査器具を持ち込み、腕章と白手袋などをつけて現場にしゃがんでいたりしてみようと計画していたのだ。が、山ん中にはタヌキとかイタチとか怨念ぐらいしかいないし、誰も「科捜研」と勘違いもしてくれそうにないので止めてしまった。眠れる魑魅魍魎(チミモウリョウ)を変に刺激してヤバイことになるのも嫌だし、白衣なんか着て出かけるとお向かいの旦那さんにまたまた変人扱いされそうだしなあ、レレレなのだ。

 さて、前回崖崩れで通れなかった道のその先にまさしく「トンカツ屋強盗殺人・死体遺棄事件」の遺棄現場があるわけである。1週間経って林道はすっかり復旧していた。
 噂通りその先に小さな川があり、さらにそれに架かるこれまた小さな橋があって、その近辺こそが遺棄されていた場所らしいのである。10年前とはいえやはりちょっと気味が悪い。オンネンはすでに絶対にどこからかわたしを見ておんねんゾ。
 そしてさらにムムッと来た。何か違う。一匹じゃない。怨念の単位が“匹”かどうかはまた別の日に議論することにして、複数の“目”を感じてしまうのだった。男も女もいるようだった。気配と匂いがした。火薬と味の素(?)を混ぜたような臭いだ。わかりますよね、我ながらこの表現、言い得て妙だと思う。
 実はですね、そのあたりはそのトンカツ屋の事件とはまた別に、首吊りの名所でもあるらしいのだ。天気の悪さもあいまって何やら真綿のくずのようなフワフワしたものがあたり一面に漂っているのが感じられた。風はないのに髪を撫でられた感覚があった。オンネンにもいろいろそっち方面の趣味を持ったのがたくさんおんねんやろか?
 さらにさらに、直線距離で1kmも離れていないところに南総里見八犬伝の時代の刑場があったらしく、造成工事で今でもザクザクと人骨が出るらしい。オンネンズタウン、怨念の坩堝(るつぼ)、世界怨念見本市、怨念谷……!
 川はあった。橋も見つけた。紐を架けるのにちょうどいい枝ぶりの木もたくさんあった。これから死のうっちゅう人が枝ぶりにこだわるというのもなかなかに恐ろしい話だ。
 わたしは霊感が特別強いわけではないが、いろいろな奴がいっぱい浮遊しているのだけはなんとなく分かるのであった。肩が凝って歯根がジワジワと痛みだし、息が詰まって胃がキリキリとねじれた。長居する場所ではないようだった。
「非科捜研の男」に“使命”など毛頭無いのだ。もとよりただのパンジン(一般人)である。我先にただただもうもうもう一直線に逃げ出してまいりましたのだ。いやはやダメダメ探検隊ですのであったある。

「首吊り」で急に思い出したことがあるので長くなりそうだがちゃんと書いておきたい。
 小学1年かそのちょっと前ぐらいの時、2〜3軒先の近所の家で首吊りがあったのだった。まだまだ貧しい時代の鹿児島の小さな半農半漁の村での話である。たしか夕方だった。わたしはそのことを聞いた直後に好奇心むき出しで現場に駆けつけた。がしかし、なぜかそこにはすでに母がいて「図星!」と言わんばかりに手を広げ、そして「入ってはダメ、見てはダメだ」と言ったのだった。
 ませていたのだろう、口惜しい気分ながらわたしはその場の空気と理由を理解した。しかし大人たちの人垣の隙間から一瞬だけ、大きな何かウサギのようなものがぶら下がっているシルエットを見たような気がした。が、それが本当にそういうものを見た記憶なのか、後で想像したイマージュなのかは今ではもうはっきりしない。
 おもしろいなあ、変だなあと思うのは母のことである。あの日とっさに「入ってはダメ、見てはダメだ」と人道的(?)な事を言ったくせに、後日わたしが悪さをする度に懲らしめるためなのか罰を与えるつもりだったのか、その首吊り自殺の死体の詳細を恐ろし気にそしてちょっと楽し気に演出して語ってみせるのだった。
「首吊りをするとな、舌がベロダラリーンと胸のあたりまで垂れ下がって出てしまうんだからな」
 それがどうした、なんてことを言うんだ子供に! とわたしは大人のような顔をしていつも憮然と反抗したものだが、今になって思うこととして「舌が胸の辺りまで伸びきって出てしまう」というのは科学(医学?)的に本当のことなのだろうか? なぜなんだろう? どうしてそうなるのだ? とそっちの方が不思議で不思議で気になってしかたがない。
 
 垂れ下がるというよりも、むしろ首が絞まって舌が喉の奥で収縮してしまうんじゃないか? とわたくし非科捜研の男は勘で推測するのだが判断する材料も知識も持ち合わせていないところが実に悲しい。もしも知っている人がいたら……かかわりたくもないでしょうが……やっぱり教えてください。ア……実写の写真なんかが有るとリアルでさらに話が拡がるですか……ネ。


※(後日談)2〜3日たった今も肩凝りと歯根の痛みがとれない。何か嫌な奴を連れて帰ってきたようだ。と思っていたらピンときた。橋のたもとに落ちていた小さなオレンジ色の切子のコップをバイクのキャリーボックスに入れたままだ。拾うんじゃなかった……どうしよう。





             





オンネンズのデビュー曲「となりの怨念ちゃん」 
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崖崩れは復旧

来るなと言っている

ここヤバイよな

どこかに顔が写ってないか

俺ならここに遺棄するな

いい枝ぶり?
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