ヒヨドリ妻ヒヨ子
切株から出た枝に咲く
寒桜だろうか
オシベの数が多い
花弁がややお椀状だ
2014年03月13日(木)「 早咲き桜 」
腰の具合がいい感じである。ここ2、3日暖かいということもあるが、疼痛が次第におさまりつつあるのだ。となると気分まで軽くなるのが実に嬉しい。思うに、腰痛にとてもよく効くといわれる「マッケンジー体操」をやりすぎて、かえって状態を悪化させてしまったような気が今になってするのである。
腰をグイグイグイと強く後ろに反らす運動を止めて、前屈のポーズをとったまましばらくの間静止、といったエクササイズを続けていたら途端に痛みが和らいできたのだ。まあこれも単なる思い込みかも知れないのだが、昨日なんか犬の散歩で4時間もウキウキと歩けてしまった。う〜む、困ったお調子者ジジイでもあるんだなあ。
で、今日こそは「鵜原理想郷」の下見に勝浦まで行こうと思っていたのに、アチャーの雨だ。で、仕方なく2階の窓から「横着デジスコ」をやっていたのだが、所詮横着デジスコだから珍しい鳥の写真などは撮れるわけがない。ムクドリ、ツグミ、セキレイ、キジバトぐらいしか庭にはやって来ないのである。すぐに飽きてしまった。
機材の調整を済ませ、そろそろ終わりにしようと片付けを始めた直後、フィールドスコープの視界に突然1匹の鳥が飛び込んできた。一見何の変哲もないヒヨドリだと思ったのだが、こういうのを因縁というのだろうかなあ。何かがひっかかってわたしは再び機材を組み直し、そのヒヨドリを液晶画面にとらえたのだった。
よ〜く観察してみると、鳥のくせに(?)涙で目が潤んでいるのである。ウル目イワシという魚がいるが、真似してウル目ヒヨドリと命名したいぐらいである。花粉症の可能性も疑ったが……まさかなあ。
さらにだ、わたしがピント合わせやデジカメの設定でチョコマカチョコマカと手を動かしているのにもかかわらず、彼女は(女?)逃げるそぶりさえ見せないのだった。それどころかわたしをジッと見つめているのである。体の向きを変えたり、止まる枝を変えたりはするけれど、飛び立たずじっとわたしの目を見ているのだ。
「ウル目でガン飛ばしてんじゃねえぞこのアマ〜!」と試しに今日もまた「岸和田少年愚連隊」風に関西弁で叫んでみたのだが、それでもずっとわたしから視線を逸らそうとはしないのだった。
わたしはハッとしてピンときた。
「こいつはおそらく……、先日助けた2匹のヒヨドリのうちのカタワレにマ・チ・ガ・イ・ナ・イ。探り当てたんだんなあ我が家を。そうかそうか遂に恩返しだな、恩返しに来てくれたんだな!」
鳥を見て鳥肌がたったのは初めてであった。
階下に下りて庭に出た。人妻ヒヨ子は、もとい、ヒヨドリ妻ヒヨ子はそれでも逃げない。5mほどの距離を保ったまま、わたしを何処かに導くようなそぶりをみせたのだ。わたしは少し迷ったが、こういう誘いにはやっぱり男として乗ってみるべきだろうと決意した。女子に誘われるのも、我が人生おそらくこれが最後だろうと思ったし、まさか宗教に勧誘されたり、スイミングクラブに誘われたりすることもおそらくあるまいと判断したからだ。
ヒヨ子はチラチラとわたしを振り向きながら5m先を飛び続けた。我が家からはもうだいぶ離れてしまっている。そして100mほども進んだころ、彼女はわたしを小さな公園へと導き入れた。そして1mほどの丈の梅の木に止まり「ピーッ、ピーッ」と2度叫び、そのまま山の彼方に飛び去って行ってしまったのである。
なんだかなあ、尻すぼみな話だよなあ。あっさりし過ぎてるよなあ。事実は小説より奇なりというのだからもっと何かないとなあ。せめて「ピーッ、な〜んちゃって」ぐらい言って欲しかったよなあ。千葉だから「ピーッ、ナッツ」でもいいけど。
「あれ? これは……桜だねえ? 梅だとばかり思っていたが桜だねえ! なんだなんだ、どういうことなんだ? もうすでに満開に近いじゃないか!」
わたしは芝居じみた大袈裟口調でしゃべっていた。思いがけなく嬉しいことがあると昔からよくそうなるのだ。
はっきりとした名前までは分らないのだが早咲きの寒桜の仲間のようだ。ソメイヨシノのような派手さは無いが、白い花弁と多数の黄色いシベの対比が美しい。鳥たちは高いところから広角で見ているので、町内にある花々の開花状況などには特に精通しているのかも知れない。「早く春になって欲しい」というわたしの願いを知って、恩返しは桜の花で…なんて考えたのだろうか。
「ヒヨドリ妻ヒヨ子の恩返しは『春』だったんだなあ」とわたしはまたまた芝居がかった独り言を言った。
ヒヨドリ夫ヒヨ太の方は……恩知らずの罰当たり、男はまったくだめだ。
一枝を手折って持ち帰り、妻に渡すと「キャベツか白菜の方がよかったわねえ」などと夢もへったくれも無いことを言うのである。
しかし言われてみると確かにそうだ。だって命の恩人ですからねえ、命の。命は何物よりも重い訳ですからねえ。それへの恩返しはやっぱり花よりド〜ンと現金(げんなま)がいいでしょうねえ、人間界では常識ですよねえ。
「翼があるんだからなあ、紙幣なら軽いんだからなあ、たくさんある所から無い所へクチバシに挟んで運べばいいだけなんだからなあ、君たち飛べるんだからなあ、わたしもそれを望みます。次は頼みますよヒヨ子ちゃん。旦那にもよく言っといてよ〜」
わたしはヒヨ子にもう一度来るようテレパシーを送った。恩返しのオカワリやね。
そういえば高校生の頃、世界中の鳥を洗脳・支配して全世界に落ちている金銭を我が家に届けさせるということはできないものか、と真剣に考えたことがある。相当な額になるはずだよな。実写風の夢も何度となく見た。SFチックな話のアイデアとして考えたのではなく、現実的に可能なのではないかと真剣に思っていたところが、わたしらしい。
高校時代になぜそんなに金が欲しかったのかを今必死で思い出そうとしているのだが、17歳のくせに厭世観に満ちた記憶ばかりで実に情けない。私利私欲のためではなかったことは確かだと思うのだが。
そうだそうだ、幼馴染の女性が身売りさせられたことを知って、わたしはその彼女にひと方ならぬ恩義があって、そして彼女を置屋から身請けするのに大金が必要だった……ような……かなあ。そうだ思い出した。彼女の源氏名は「ひよこ」だった! 一度だけ会いに行ったことがある。
「いつの時代の話だよ、妄想だろうよそれ」とみんな言うだろうけど、まあちょっと作ってるけど、いいじゃないか例えだよ例え。
「恩返しは現金(げんなま)で」というのが遥か古(いにしえ)から決まっていたんですよーっていう例えだよ。頭の固いやつはこれだからなあ。
mk
もう一匹はどうしたんだよ! 恩知らずめ
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