「 “堤防釣りガイド”失格の巻 」
08年7月30日(水)「 ガイド失格 」

 若い友人が遊びに来てくれたので片貝漁港に釣りに行く。友人というのは、06年10月のフィールドノート「熊カレー」で書かせてもらった金沢くんと小池ちゃんである。共に海での釣りは初めてということで、例によって“世話焼きジジイ”の血が騒ぐ。なんとか釣らせてあげたい……それだけだ。そうでないと釣りが嫌いになるかも知れないじゃないか。嫌いになったらそれこそわたしの責任だ。釣り振興会会長の面目が立たない。
 小池ちゃんの意気込みがスゴイのでちょっとビビる。本気で晩御飯のおかず、しかも刺し身系を狙っているようでさらにビビる。「現在、片貝は伊勢エビ釣りで超盛りあがっています」なんて事前にメールなどを送ったのが今になって思うとまずかった。もう……神頼み(ビギナーズラック)しかない。

 しかしながら、釣り具屋に“赤イソメ”は無かった。伊勢エビを試すにも、イシモチ、カレー、フッコ、キス、ハゼの大漁を狙うにも“赤イソメ”がキーポイントなのである。
「ここのところの伊勢エビ釣りブームで隠し在庫も無いんよ、テレビで放送なんかあったりしてさあ…」とのことであった。“隠し在庫”というものがあるのを初めて知ったが、だからほんとうは店の奥の冷蔵庫には有るのかもしれなかったが、食い下がったが手には入れられなかった。
 釣りは「T.T.P.O」である。普通のTPO(Time 、Place 、Occasion)にさらにもう一つ“T”が入る。餌を含めたToolだ。しかたなく青イソメを2パック買い、バイクだったらすいすい走る堤防を、突端まで2Kmほど3人で歩く。わたしは赤イソメが入手できなかったのでもうすでに敗北者のようにトボトボと歩いた。

 堤防の中ほどで軽トラとすれ違う。筋金入りの丘釣りジモピー(地元人)である。ミイラ?のように黒く日焼けした顔、体脂肪率1%の体、鋭い眼光、ちょっとうるさそうではあったが、わたしは今後のこともあったので声をかけた。
「ここまで車で乗りつけるには、どこから入ったらいいんすか?オヤジさん」
「ダメだよ一般人は。俺達は特別だからよう」オヤジは漁協の鑑札のようなものを助手席から取り出して見せた。そして小池ちゃんをチラと見た。
「伊勢エビが釣れるそうですねえ?」
「おうよ、俺が仕掛けから何から全部考えて、みんなに教えてやったんだ〜」
 出た出た、こういうオヤジが必ずいるなあ、どこの釣り場にも…わたしはちょっとうさん臭い奴、という印象を持ったのだが次の一言で分からなくなってしまった。
「俺は1日に20匹から30匹は獲るな」
「そりゃあ、食べきれませんねえ、冷凍しとくんですか?」
「馬〜鹿言ってんじゃねえよ、売るんだよ。1日に3〜4万にはなるさ」
 九十九里の伊勢えびは有名だ。さらに天然ものだからお土産用、料理屋用にどこでも買い取ってくれるのだという。さらにここは誰でも無料で釣っていいので、テトラの上は親子連れも含めて20人ほどの釣り人でにぎわっていた。
「イシモチは釣れねえだろうが、まあ頑張りな」
 オヤジはそう言って軽トラをゆっくり走らせた。が、30mほど離れたところで止まり、クラクションを鳴らして手招きをした。わたしと小池ちゃんが駆け寄る。オヤジはまた小池ちゃんをチラと見た。
「おまえら、どうせ釣れねえだろうからよ、これやるよ」
 オヤジが差し出したビニール袋には、小粒だがハマグリが1Kgほど入っていた。堤防釣りには女子を連れて行くべし! である。

 実績のある場所で竿を出す。仕掛けのセット、餌付け、投げ方のレクチャーをし、わたしはガイドに徹する。金沢くんはのみ込みが早く、まもなく60m以上は投げられるようになった。小池ちゃんはそれよりは時間がかかったが、小1時間ほどもすると40mは投げている。港内はそれで十分だ。餌付けもやってもらった方がいいと思い放っておいたので、二人ともじきにできるようになった。アオイソメを余らすのはもったいないので、わざと「餌は頻繁に、しょっちゅう変えるべし」と指示した。
 ときどきコツッコツッとアタリがある。満潮まで2時間弱、そろそろわたしに大物が来る頃、と思っていると金沢くんにフッコの小さいのがきた。生まれて初めての魚なのだ、ヘラヘラ笑っている。リリースしても死ぬだろうと思い、今日はすべて持ちかえることにした。金沢くんは俄然本気になり、時々かかってくる仕事の電話に対応しながらも神経は竿先に集中させている。構えがもうベテランのようだ。そしてときどきヘラヘラと笑い、その笑いが出た時は必ず針にフッコが付いていた。
「小池ちゃんに一つぐらい運を譲れよ!」とわたしは辛い思いをしながら心中穏やかではない。小池ちゃんも可哀想だが、わたしだって釣ってみせなきゃガイドとしての立場がない。しかし金沢くんの高笑いだけが続いた。カニなんか釣った時にはブハブハとヨダレを垂らしながら笑っちょるもんねえ! サイテー!

 ハマグリをくれたオヤジが再び堤防に戻ってきて伊勢エビ釣りを始めたようだった。それまでの様子では、実際にエビが釣れた人は居ないようだったのだが、このオヤジはそれから約1時間の内に3匹釣り上げ
、わたしたちに見せびらかすように帰って行ったのだ。どうやら彼の言ったことは全て本当なのかもしれない。わたしは小池ちゃんに「伊勢エビをねだれ、ねだれ」とそそのかした。

●今日の釣果
  金沢くん   フッコ 4匹 、 カニ 2匹
  小池ちゃん ボウズ (ハマグリ1Kg  釣ったんじゃないけれど…)
  わたし    フッコ 1匹 、 キス 1匹 、 カレイ 1匹 、 フグ 1匹

 6時きっかりに竿を納めた。夕まずめが一番釣れるのだろうが、若いふたりには明日がある。わたしには明日は無い。次の日も休みなのだった。クックック。
 家にもどると、妻と娘が手巻き寿司の準備をして待っていた。わたしはそれを見てひらめき、大鍋に湯を沸かしハマグリ、カニ、その他もろもろの小魚をぶちこんだ。ブイヤベース風、もしくは漁師料理風の味噌汁に仕立てた。網戸から入るヒンヤリとした夜風(ここ土気は千葉のチベットと言われている)は焼けた肌を、そして暖かい味噌汁は疲れかけた心を癒した。
 小池ちゃんはチマチマとカニの身をほじり「釣りたかったなあ」とつぶやいた。笑ってはいるが相当悔しかったようだ。
「今度はさ、帰る時間を気にしないでいいように、泊りがけでおいで」
 妻の言葉に小池ちゃんはハイ! と応えた。釣りが嫌いになった様子はない。
「秋になったらハゼが嘘のようにどんどん釣れるらしいから……さ」
 妻はわたしの方をチラと見て、クククッと鳩のように笑った。
 やばいなあ、マジで人が遊びに来てくれた時に大漁を味わってもらえるよう、徹底したロケハン(調査釣り)をしなくちゃならなくなってきた。う〜ん、遊んでなどいられない?????

 
 
 
               




mk

この距離が釣果の差?

真剣そのもの

ピースじゃなくてカニの鋏

さすがにこれはくれなかった
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