2009年6月1日(月) 「 DNAのなせる業 」

 平日なのに娘と休みがいっしょになった。妻は六本木の国立美術館に自分の絵が展示されているので、それを観に行き留守だ。いくら親子とは言っても狭い家の中に男女が二人きりとなると意識する……するかいアホ、誰が変態じゃ! まったくなあ、悲しくなるぐらい我が娘には色気というものが無いのだよ。

「腹減った、パパ何か作れよ。このまえのピリ辛丼でもいいぞ」
「何言ってんだチミは? お父様、何かお食事をお作りしましょうか、だろ?」
「そういうタイプの女が好きなのか?好みが変わったな。最近あやしいからな」
妻は嘆き悲しんでいる。娘とわたしは“親子双生子”だ。女のくせにわたしのクローンである。口が悪い。態度がでかい。根拠の無い自信家。威張っている。言い張る。ごり押しをする。話を作る。作った話を自分でも信じ込む。親分になりたい肌。涙もろい。無理をする。頑固である。偏屈である……etcだ。椎名誠の「岳物語」に憧れて、ちょっと真似た育て方をしてしまったので、かわいそうに男のようになってしまった。

「ママをジンギスカンで釣って秋元牧場に連れ込んだんだろ?」
「連れ込むってオマエ、ホテルじゃあるまいし、なんて事言うんだ」
「馬とか触れるのか? どうせ行くんだろ今日も? 私もジンギスカンで釣られてやってもいいぞ」
脅迫的なお誘いだが、わたしの目は花になった。またまた秋元牧場に行ける。たまにはつき合ってやろう、という娘の半芝居も本当はわかっていた。やさしい所もあるのだよ、このDNAには。

ひととおり牧場を案内して回った。バーベキュー屋のおばさんには顔を覚えてもらえたようだった。「今日は娘さんね」と笑われた。よほど羊肉が好きな家族と思われているようだった。馬はすべて小屋から外に出ていて、お触り自由、牧草をたくさんあげて気をひく。秋元牧場は特に八重桜で有名だが、ここの桜は結実するタイプらしく黒いサクランボが多量になっている。アメリカンチェリーと同じ味だとだまして娘に食わした。彼女は苦甘渋い赤い唾液を吐きながら「っざけんなよ〜!」と言った。

あじさいを見ながら木陰に座る。わたしは娘の手首にたくさんのアザのような斑点を見つけた。
「何だそれ?」
「金属アレルギー」
「ブルータス、おまえもか!」
「ソクラテス、私もだ!」
 馬鹿親子である。が、わたしはこういう会話が嫌いではない。笑いもせずポンポンボソボソと交す戯言、それはそれで普通以上のものを理解し合えることもままあるのだ。わたしもそうだが、わたしの父も金属アレルギーだった。ステンレスでもダメ、腕時計でいつも手首をかぶれさせていた。まだチタンなどが無かったから、そうとうに苦労をしていたようだった。
「DNAだなあ」わたしはしみじみと言った。
「だねえDNAだねえだねえ……、DNAだ、だねい」彼女は低い声で、土人(禁止用語?)のラップようにリズミカルにうなった。不思議なDNAだ。
「時計やブレスレットをあげるという男がいたら純金しか身に付けられないのですって言うんだぞ」
「あ・さて、あ・さて、さては純金玉簾ってことだな?」
「そういうこと」
「ハイハイ」

1時間半ほどはいただろうか、さすがに若者は駄洒落にも飽きるのが早い。
「サ、そろそろ帰ろパパ。もういいだろ! 十分だろ? サービスはおしまい」
「え〜っ!」
そうなのだよ、そうやってすぐに自分の気分で仕切ってしまうのも小林家の悪いDNAのなせる業なのだ。




                




mk

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肉が増えた気がする

小椋 圭の色紙、すごい

秋吉久美子さんほか

まるで牧場の人だ

茶が白をいじめる

とてもいい色のウサギ

桑の実は懐かしい味

ありきたりの図

放ったらかしの枇杷

名前入りだぜ!
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