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愛が終わる時も音がする

短い足だね!
2016年03月21日(月・祝)「 ブチッと音がした 」

 よくアキレス腱などを切ってしまった人が「その瞬間、ブチッて音がしたんだぜ!」とか言う話を聞くが、わたしはずっと嘘だろうと思っていた。まあ確かに繊維状のものが切れるのだから、原理的には音がしてもおかしくはない。
 耳鳴りというのもある。内耳の奥で何かが実際に振動して音が出ているらしいので、回りの人にもそれが聞こえる場合があるらしいのだ。
 なるほどなあとは思うが、しかしやっぱりどこか盛った話のようで100%信じていなかったのは事実なのである。

 勤務明けで午前10時に帰宅した。ここのところ“明けが嬉しい”ほどに多忙なので(ありがたいことなんだけどネ)、ちょっと開放的な気分になり、カブで近所を走り回ってみようとキックを踏んだのだ。
 かからない、エンジンがかからない。10回目ぐらいにやっとかかって走り出したが100mぐらい走って止まってしまった。バイクを押して自宅に戻り、意地になって思い切り力を込めてキックを踏んだ。時々かかりそうになるから諦められない。そしてついに20回目を踏んだときに……ブチッと音がした。先日書いたスタンガンの衝撃に少し似ていた。

「あらら、あらら、そりゃ肉離れだわ! そんなに動けないんじゃ切れちゃったかもですねえ……」
 肉離れ経験者の妻は確信をもってそう言った。
「内出血は無い? 青黒くなるのよう!」
 おそろしい会話である。
 めったに医者に行かないわたしだが、明日の勤務を思うと、今回は医者の世話になるしかないと諦めた。車の助手席にやっとの思いで乗り込み、あとは妻のいいなりである。
 ところがだ、接骨院も整形外科もどこもやっていないのである。当ったり前田のクラッカーなのである。三連休の最終日だものなあ。5軒ほど訪ねて腹をくくった。救急車要請も考えたが一刻も早く湿布した方がよさそうだ、と考えたのである。


 薬局で湿布薬とテーピングの一式を買い、筋肉を固定した。実際に寒いせいもあったが、悪寒がして震えが止まらない。上下の歯が当たってカチカチ音がする。この歳になって体の一部が壊れたという恐怖は必要以上に不安を掻きたてた。
 鹿児島弁で“弱虫”とか“度胸の無い奴”とか“腹のすわっていない奴”のことを「やっせんぼ」というが、わたしはまさにその時そうであった。
 少し落ち着いて冷静になると馬鹿な話だが「そうだ、これフィールドノートのネタにしよう」と考えた。職業ではないが職業病かもしれない。ブルブルと震えながら、痛いのに少し傾けたり、ひねってみたりして写真を撮った。
「何してんのパパ、バッカじゃないの?」
 妻の頭の中でブチッと音がした気がしたが、あれは何が切れた音だろうかなあ。