坊主もまた楽しからずや
07年10月31日(水)「 坊主もまた楽しからずや 」

 腰の具合がだいぶ良くなってきたので、コスモスの写真でも撮っておこうと見沼へ出かける。例年「コスモス祭り」というのを地元のお百姓さん達がやっていて、トン汁などを出してくれるのだ。花も取りたいだけ取っていいので妻に土産にしようなどと姑息(?)なことも考えた。
 目的地に着くとお百姓さんたちがせわしなく動きまわり、なにか準備のようなことををしている。
「やっぱりなあ」わたしは今日が平日であることを思い出した。コスモス祭りはきっと次の土日であろうことが容易に想像できた。(注、川のこちら側もコスモス畑なのだ)
 ふと足もとの芝川を見ると、水深25cmの川底にキラキラキラキラと光るものがいる。それはオイカワに違いないことは経験でわかった。どういう訳か今年は水がとてもきれいである。が、不用意にも今日に限ってフライセットを持ってきていないことに気付き、わたしは時計と太陽の高さを見た。家まで引き返すのに30分、準備に10分、もう一度そこに戻るのに30分、釣りをするのに太陽はまだ十分な高さにあることを確信したわたしは、急遽スーパーカブにまたがりエンジンをかけた。腰がまた悪くなりそうな気がしたが、ゴロタ石のむき出しになった農道を近道し立ち乗りで戻った。何度か大きな石に乗り上げたが、わたしのカブはオフロード仕様にしてあるのだ。

 何ヶ月振りに出すフライラインか、もう自分でも思い出せないくらい間が空いてしまったけれど、ラインはスルスルと伸びてフライは静かに水面に着水、勘はすぐに戻る。パシッ、いきなり来た。……がくわえていない。尻尾ではじいただけのようだ。すかさず第2投、またはじかれる。……どうやら食っているものが違うらしいのである。反射的に水面に落ちてきたものに反応するのだが、それが食べられるものでないことを見切ってしまっているのである。魚とはいっても学習能力があるので、やがてフライに反応すらしなくなってしまった。たまにフライを見に来るが、そっぽをむいて川底に帰ってゆくのである。
 大小、形、水中に沈むやつ、とひととおり試したが、最後までオイカワは針をくわえてはくれなかった。もう試すべきフライもなくなり、悔しいがわたしは次回を誓って竿を納めた。

 すっかり暗くなってしまったが、ひさしぶりにこんな時間まで夢中になれたことがわたしは嬉しかった。ボウズなのに嬉しかったなんてのは初めてかもしれない。エンジンをかけ、カブのスタンドを外すとハンドルが奇妙に揺れた。ゲッ!パンクである。悪路を飛ばしたのでチューブがバーストしたようだった。
「どうかしたの? なんか釣れたっけ?」
 犬を連れた、いや、犬に連れられたオジジイが面白そうに聞いてきた。
「ニジマスのちっこいのが10匹ぐらいね。水さえきれいになれば、居るんだねえこんな川にも!」
 川を覗き込むオジジイを尻目に、わたしはもう覚悟を決めてグラグラ揺れるハンドルのままトコトと帰った。
 家に戻り、わたしが「芝川オイカワスペシャル」と名付けた奇想天外なフライを5本巻いたのは言うまでもない。それは次回、笑いが止まらないほど釣れるはずである。

「昨夜、寝ながらウヘッ、ウヘッって笑ってたよ」
 妻に言われたのは翌朝のことであった。ヤバッ!




              




mk

うららかな秋の日

コスモス祭りが近い

芝川

お百姓さんが笑う

暗くなってしまった
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