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2017年03月06日「車イジリとアッシー君三昧」 車イジリもいよいよ最後の段階、ハッチバックの凹みをなおしている。買った時点ですでにあったものだが、見る人はそんなことは知らないから、バックミラーに映る顔が皆わたしを笑っているように見え始めた。こう見えて意外とナイーブなのよ。 内側の目隠しカバーを外して木の棒で細かく慎重に押し出して整形、それでも残った凸凹はFRP(ポリエステルパテ)で成型しようという訳である。 FRPというのは船やボート、車の外装、バイクのカウルなどの製作にプロが使っている積層素材だ。前々から興味はあったのだが機会が無かった。面白そうなので(ベニア板カヌーを作る時の参考にもなるので)簡単なキットを又々ヤフオクで買い揃えた。 6、7、8日と3連休をもらったのでカヌー2日と車イジリ1日の計画を立てていたのだが、なんたる事だ! オフクロの容態が悪い。いつもと様子が違うようなのだ。ボケてはいるがまだ体力アリと聞いていたのに……。今回は一向に回復しない。 2月の末に施設のトイレで呼吸が止まり、救急隊のお陰で何とか蘇生してかかりつけに入院した。誤嚥(ゴエン:飲食物が気管の方に入ってしまうこと)による肺炎ということだった。 2日後大事をとって大きな病院に転院、危篤状態はなんとか脱したが92歳という年齢を考えれば何時逝ってもおかしくはないといった状況がずっと続いているのだ。衰弱がさらに進行しつつある。 “今後のこと”について医者からお話しがあるというので親族と介護ホームの担当者が集まることになった。 「遊びに行くので欠席します」とは、さすがに言えない。 シファカ(知りたい人は調べて下さい)のような顔をした医者は、わたしの顔をチラチラ見ながら話し始めた。わたしが怖いのだろうか? まあかなりきつい顔で睨みつけていたけれど。 「全てがですね脳梗塞のせいなんですよ。ほら、この黒い影は全部梗塞、こんだけ有るとですね、もう体のあちこち…というか殆どが正しく機能していないのです。誤嚥もその為に起こったのだし、物を飲み込めないとなると衰弱が激しくなるし、内臓を使っていないとですね免疫力も無くなります。人間、点滴だけでは生きられないのですよ。血管がどんどん細くなって点滴も直にできなくなりますし、皮下点滴、手術して体の中の太い静脈に入れる点滴、あとは胃瘻(イロウ:体に穴を開けて管で胃に直接栄養源を送り込む事)ですかねえ? 胃瘻だってかなりのリスクを伴います。よ〜くお考えになってください。それと、うちも入院できるのは最長で2ヶ月です。色々と国のシバリが多くてねえ」 いつかこういう日が来るのは分かっていたが、それよりも何よりもしゃべり方が気に食わない。姉がやや怒り気味に尋ねた。 「同じような状態でですね、先生のお母さまだったら、先生はどうなさいますか?」 一考もせずシファカは即答した。 「何もしません。私だったらもう点滴もしません。自宅か施設に戻して命をまっとうさせます。今以上に良くはならないんです。まあ……できる間だけですが点滴だけはしてくれる病院もありますよ、いわゆる“お看取り”の病院ですね、紹介しますか? あのですね、人間の心臓の鼓動は30億回が限度なんです、お母さまの鼓動はもう33億回は越えていると思いますよ」 老衰というのは病気ではない。有無を言わさず衰退していく体の現象なのである。だから治るということはないのである。 しかし分かってはいても、つい先日まで施設に通い詰め、付き添って全ての食事を摂らせていた姉にとっては、現実を受け入れられないのも無理はない。がっくりと肩を落として黙りこくってしまった。 しかし選択肢はもうそれほど多くはないのだ。延命措置をしたとしても、もって1ヶ月か1ヶ月半だろう、大差はない。 「痛い思いをしない方法にしてやろうや」 「……」 わたしが希望するのはもうそれだけだ。 姉は運転が出来ない。わたしはこれからしばらく、出来る限り姉のアッシー君になってやる事にした。 |
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